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パリとPCT 結局どちらが安いのか?

2024.04.24

A. K.

特許の外国出願において、パリルート、PCTルートの2つの出願方法があります。
一般的に「3~4カ国以上だとPCTの方が安い」と言われていますが、この噂は本当なのか考えてみました。

以下は、日本企業様の出願件数が多い外国4カ国におけるパリルートとPCTルートの出願費用比較です。
弊所費用、現地手数料は一般的に差異がないので、印紙代(出願+審査請求)のみを比較をしています。

アメリカ:パリ USD1,820、PCT USD1,660 →差額USD160 (約2.5万円)
中国  :パリ CNY3,530、PCT CNY3,030 →差額CNY500 (約1万円)
韓国  :パリ、PCTで差異なし
欧州  :パリ、PCTで差異なし

中国、アメリカでは、PCT経由での審査請求費用減額があるため若干費用が抑えられますが、全体としては、パリ、PCTいずれを選択しても各国費用に大きな差異がないと言えます。従って、権利化する国が同じだと仮定すると、PCTルートを選択するとPCT出願分の費用が純粋に高くなることになり、何カ国に出願したとしてもPCTルートを選択する費用的なメリットは生じないことになります。

では、PCTルートに費用的なメリットが出てくるのは、どのようなケースでしょうか?

例えば、パリルートで基礎出願から1年後(以下、パリ時点)に出願国を選定した場合に比べて、
PCTルートで基礎出願から2年半後(以下、PCT時点)に精査することにより権利化不要と判断する国が出てきたケースを考えてみます。

例えば、PCT費用が30万円、1カ国の出願費用が50万円と仮定して、
5カ国に出願した場合、
・パリルート: 50万円 × 5カ国 = 250万円
・PCTルート: PCT30万円 + (50万円 × 5カ国) = 280万円

パリ時点で5カ国と想定したが、PCT時点で4カ国に絞り込んだ場合、
・パリルート: 50万円 × 5カ国 = 250万円
・PCTルート: PCT30万円 + (50万円 × 4カ国) = 230万円

この絞り込みが起こる確率が高くなるほど、PCTルートの費用面でのメリットが大きくなると言えます。従って、出願人様においてこのような絞り込みが起こる頻度をどのくらいと想定するかによって、何カ国以上でメリットが出てくるかが変化するという結論になります。

例えば、20%の確率で絞り込みが行われるとすると、
1カ国あたり50万円×20% = 10万円の「無駄な移行せずに済んだ」メリットが生じますので、4カ国以上でPCT出願30万円との逆転が生じてPCTに費用面でのメリットが出てくると言えます。

また、上記試算とは逆に、パリ時点では権利化を想定していなかった国や微妙なラインで諦める決断をした国について、PCTルートであれば権利化が可能であるケースもあります。この点については金額としての換算が難しいですが、パリ時点とPCT時点で出願国が変化する可能性が大きくなるほど、PCTのメリットが大きくなると言えるかと思います。

以上、かなり単純化した試算のため考慮が足りない部分も多々あるかとも思いますが、改めて考えてみると興味深い結果となりました。ご参考になりましたら幸いです。

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