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日本などの「進歩性」と、米国の「非自明性」の違い

2013.02.14

伊藤 寛之

日本などの「進歩性」と、米国の「非自明性」の違いですが、現在の実務では、両者の判断基準は、実質的に同じと考えていいと思います。
両者の関係は、時代によって少しずつ変わっています。
2007年まで
米国では、「自明」と判断するためには、2007年までは、2つの文献を結合するための明確な動機が求められており、この「動機」を認定するためのハードルは非常に低いものでした。一方、この時代、日本の「進歩性なし」を認定するには、「技術分野」が同じであれば、組み合わせが容易であると判断されていました。従って、「非自明性」の要件は、「進歩性」よりもかなりゆるいものでした。
2007年 KSR事件
米国では、「非自明性」のハードルが低すぎて、なんでもかんでも特許になるという弊害があり、KSR最高裁事件において、「非自明性」の基準を見 直し、その結果、「「動機」は、もう少し柔軟に認定しなさい」となりました。
KSR事件(日本語の解説)
最近の日本の実務
日本の従来の進歩性の実務では特許取得があまりにも難しいという非難が多くあり、「動機」を検討せずに組み合わせ容易としたものについて、知財高裁が、「組み合わせの動機がない」という判決をいくつか出し、その影響もあって、特許庁は、動機がないものについては、組み合わせ容易という判断をしぶるようになってきました。
まとめ
2007年までは、「進歩性」と「非自明性」は基準が異なっていましたが、この数年で、「非自明性」が「進歩性」に近づき、「進歩性」が「非自明性」に近づき、両者は同じような判断基準になりました。
日本で、進歩性欠如に対する反論は、(1)組み合わせに阻害要因がある、(2)顕著な作用効果がある、のどちらかが主ですが、米国でも同様で、(1)teaching away(阻害要因)がある、(2)unexpected result(予期せぬ作用効果)がある、のどちらかで非自明性を主張します。
「MPEPの要点が解る 米国特許制度解説」を書いた丸島先生のサイトです。
(4)出願人の対応
 審査官がひとたび「一応自明であるこ と」を示すと、今度は立証責任が出願人側に移ります(MPEP§2142)。出願人は、例えば次のような主張により、「一応自明であること」に対して反論することができます(MPEP§2144.05, §2145)。
クレームの範囲において予期せぬ結果を達成できることに 基づく、その範囲が重要であるとの主張
クレームされた発明とは反対方向へ先行技術が説示しているとの主張(teach away)
審査官の結論は不適切な「あと知恵」によるものであるとの主張
試行(パラメータ等)するのは自明であるという審査官の理屈は不適切であるとの主張

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