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外国企業を被告とする侵害訴訟の管轄権が問題になった事件(Nuance Communications, Inc. v. Abbyy Software House (Fed. Cir. 2010))

2010.11.29

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Nuance Communications, Inc. v. Abbyy Software House (Fed. Cir. 2010)
この事件では、特許権者が、カルフォルニア連邦地裁に、ロシアの会社を訴えたところ、personal jurisdictionがないことを理由に訴えが却下されました。これに対して、CAFCは、このロシアの会社の行為がカリフォルニアの会社を対象にしているので、minimum contactの要件が満たされてるので、カリフォルニア連邦地裁は、personal jurisdictionを有しているとして、カルフォルニア連邦地裁の判決を覆しました。
米国では、裁判所が、subject matter jurisdictionpersonal jurisdictionの両方を有しているときにはじめて、裁判所は、その事件を扱うことができます。
subject matter jurisdiction(事物管轄)は、訴えの対象になっている物に関しての管轄です。米国には、州法と連邦法があり、裁判所も州裁判所と連邦裁判所があります。州法に基づく訴えは州裁判所に提起し、連邦法に基づく訴えは連邦裁判所に提起します。言い換えると、連邦裁判所は、連邦法に基づく訴えしか扱うことができず、例えば、離婚に関する訴えは州法に基づく訴えですので、このような訴えが連邦裁判所に提起されても、連邦裁判所は、取り扱うことができないので(subject matter jurisdictionを有しないので)、州裁判所に移送します。特許法は、連邦法ですので、連邦裁判所がsubject matter jurisdictionを有します。
また、特許に関する訴訟の控訴審は、CAFCであると定められていますので、CAFC以外の控訴裁判所は、subject matter jurisdictionを有しません。
personal jurisdiction(対人管轄権)は、general personal jurisdictionとspecific personal jurisdictionに分かれます。general personal jurisdictionは、ここの事件とは無関係に、被告の会社の所在地や住所などによって定まる管轄です。
一方、specific personal jurisdictionは、ここの事件において定まる管轄です。上記の記事の事件では、このspecific personal jurisdictionの有無が争われました。
specific personal jurisdictionがあるかどうかは,訴えが提起された裁判所の管轄地に対して被告がminimum contactを有しているかどうかで判断されます。上記の事件では、被告の行為がカリフォルニアの会社を対象にしていることを理由に、CAFCがspecific personal jurisdictionを認めました。
なお、日本では、特許訴訟は、関西地方の事件は大阪地裁が専属管轄を有し、関東地方の事件は東京地裁が専属管轄を有します。また、これらの控訴については、知財高裁が専属管轄を有します。
また、訴える場所は、被告の住所地か、不法行為地です。


(普通裁判籍による管轄)
第四条  訴えは、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する。
2  人の普通裁判籍は、住所により、日本国内に住所がないとき又は住所が知れないときは居所により、日本国内に居所がないとき又は居所が知れないときは最後の住所により定まる。
3  大使、公使その他外国に在ってその国の裁判権からの免除を享有する日本人が前項の規定により普通裁判籍を有しないときは、その者の普通裁判籍は、最高裁判所規則で定める地にあるものとする。
4  法人その他の社団又は財団の普通裁判籍は、その主たる事務所又は営業所により、事務所又は営業所がないときは代表者その他の主たる業務担当者の住所により定まる。
5  外国の社団又は財団の普通裁判籍は、前項の規定にかかわらず、日本における主たる事務所又は営業所により、日本国内に事務所又は営業所がないときは日本における代表者その他の主たる業務担当者の住所により定まる。
6  国の普通裁判籍は、訴訟について国を代表する官庁の所在地により定まる。
(財産権上の訴え等についての管轄)
第五条  次の各号に掲げる訴えは、それぞれ当該各号に定める地を管轄する裁判所に提起することができる。
九  不法行為に関する訴え
     不法行為があった地
(特許権等に関する訴え等の管轄)
第六条  特許権、実用新案権、回路配置利用権又はプログラムの著作物についての著作者の権利に関する訴え(以下「特許権等に関する訴え」という。)について、前二条の規定によれば次の各号に掲げる裁判所が管轄権を有すべき場合には、その訴えは、それぞれ当該各号に定める裁判所の管轄に専属する。
一  東京高等裁判所、名古屋高等裁判所、仙台高等裁判所又は札幌高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所
     東京地方裁判所
二  大阪高等裁判所、広島高等裁判所、福岡高等裁判所又は高松高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所
     大阪地方裁判所
2  特許権等に関する訴えについて、前二条の規定により前項各号に掲げる裁判所の管轄区域内に所在する簡易裁判所が管轄権を有する場合には、それぞれ当該各号に定める裁判所にも、その訴えを提起することができる。
3  第一項第二号に定める裁判所が第一審としてした特許権等に関する訴えについての終局判決に対する控訴は、東京高等裁判所の管轄に専属する。ただし、第二十条の二第一項の規定により移送された訴訟に係る訴えについての終局判決に対する控訴については、この限りでない。
(意匠権等に関する訴えの管轄)
第六条の二  意匠権、商標権、著作者の権利(プログラムの著作物についての著作者の権利を除く。)、出版権、著作隣接権若しくは育成者権に関する訴え又は不正競争(不正競争防止法 (平成五年法律第四十七号)第二条第一項 に規定する不正競争をいう。)による営業上の利益の侵害に係る訴えについて、第四条又は第五条の規定により次の各号に掲げる裁判所が管轄権を有する場合には、それぞれ当該各号に定める裁判所にも、その訴えを提起することができる。
一  前条第一項第一号に掲げる裁判所(東京地方裁判所を除く。) 東京地方裁判所
二  前条第一項第二号に掲げる裁判所(大阪地方裁判所を除く。) 大阪地方裁判所

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