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各国移行の留意点

2016.07.21

伊藤 寛之

●移行時に日本の成立したクレームに補正してしまうほうがよいか、それとも国によっては補正せず広い権利範囲を狙う方がよいか。

・日本の審査は、年々ゆるくなっている。
・2012年の段階では、JPOの特許査定率は、USPTOよりもわずかに低いが、KIPOよりも高くなっている。
・以上の点から、現在、日本の審査は、主要国では、最も緩い水準になっているので、日本よりも外国において広い範囲で権利化できる見込みは高くない。
・但し、最初から狭い範囲に補正してしまうと、さらに別の観点で補正することが要求されて、結局、日本よりも狭い範囲での権利になってしまう可能性が高い。
・一方で、新規性がないようなクレームでは、諸外国で適切な文献が引用されず、審査がスムーズに進まない場合がある。
・以上の点を考慮すると、日本で引用された文献の内容を考慮して、新規性が確保できる程度の内容にまで、補正で限定しておくのがいいのではないか。

特許行政年次報告書2015年版より引用

●国により成立権利範囲が異なる場合にその後の権利範囲解釈にどう影響するか。

・以下の論文で示すように、特許権者が外国で行った主張に基づいて、訴訟での被告が禁反言の主張を行ったところ、その主張が認められた例がある。
・特許は各国で独立しているというのが原則なので、A国の権利がB国の権利よりも狭い場合に、B国の権利が狭く解釈されることは考えにくい。
・但し、A国の審査において、B国で引用されていない文献が引用された結果、A国の権利が狭くなったとしたら、その文献は、当然、B国での訴訟で提示されて、B国での権利が狭く解釈されるか又は権利無効の主張がなされる可能性が高い。

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5. 外国において生じた禁反言の効力
5.1 Caterpillar事件
(2) CAFCの判断  
CAFCは、外国において特許を取得するための要件が異なるということを述べた上で、外国代理人に対する指示及び外国特許庁に対する主張は、関連する証拠を含むのであれば、考慮されるべきであると判示した。

5.2 Tanabe事件
(4) CAFCの判断  
クレームの文言解釈及び審査経過として外国特許庁に対してなされた主張に基づき、ITCは、Tanabe社が、特定のクレームされたもの(均等物と一般的に考えられるものをも含む)以外の全ての塩基及び溶媒を排除する意図があったことを示すと結論づけた。

5.3 チャック事件
(2) 裁判所の判断  
裁判所では、特許請求の範囲の文言「融通」及び「間隙」の文言解釈が問題となった。この文言解釈にあたり、裁判所は米国特許出願に基づき西ドイツ国に対してなした特許出願の審査過程において、先行技術であるドイツ実用新案第1,907,655号に対する相違点の主張を参酌した。つまり裁判所は権利範囲の解釈にあたり、原告が西ドイツ特許庁に対して示した見解を採用したのである。
(禁反言の効力とその適用限界 河野 英仁 知財管理2004年11月号)
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