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サポート要件違反に対する対応方法(類似特許と同様の基準で審査することを要求する)

2014.09.12

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化学関係の発明では、請求項の内容が実施例に比べて広すぎることを理由に、36条6項1号のサポート要件違反が通知されることがあります。この際に、審査官は、「同様の効果が得られるとはいえない。」と主張します。化学関係の発明では、請求項に含まれるあらゆる組成について同様の効果が得られることが論理的に説明可能であることはむしろ稀ですので、審査官の主張が誤っているということはできません。その観点から、この種の拒絶理由に対する反論は、非常に困難であり、通常は、請求の範囲を実施例よりも少しだけ広い範囲くらいに狭めるしか対応方法がありません。
しかし、審査官が、サポート要件違反を適用する基準には、極めて大きなばらつきがあり、同じ分野での審査事例に比べて、明らかに厳しい基準で審査されてしまうことがあります。このような場合は、以下のような反論が可能だと思います。以下の反論が認められるかどうかは、審査官の考えに依存しますが、審査基準の内容に沿った反論ですので、それなりに説得力があるのではないかと思います。
審査基準の規定
 審査基準には、以下の記載があります(2.2.1.3 第36条第6項第1号違反の類型の(3)(b))。
請求項は、発明の詳細な説明に記載された一又は複数の具体例に対して拡張ないし一般化した記載とすることができる。発明の詳細な説明に記載された範囲を超えないものとして拡張ないし一般化できる程度は、各技術分野の特性により異なる。例えば、物の有する機能・特性等(2.2.2.4参照)と、その物の構造との関係を理解することが困難な技術分野(例:化学物質)に比べて、それらの関係を理解することが比較的容易な技術分野(例:機械、電気)では、発明の詳細な説明に記載された具体例から拡張ないし一般化できる範囲は広くなる傾向がある。
 審査基準では、「拡張ないし一般化できる程度は、各技術分野の特性により異なる」という非常に曖昧なことしか規定されていません。しかし、「各技術分野の特性」について、個々の審査官が何の根拠もなく、自身の漠然としたイメージに基づいて判断を行うと、判断のばらつきが許容できる程度を超えて大きくなることは明らかです。この点は、新規性・進歩性の判断とは全く異なります。新規性・進歩性の判断は、公知技術の開示内容に基いて判断を行うという性質上、個々の審査官の判断のばらつきはある程度の範囲内に収まる傾向があります。一方、サポート要件の判断は、「公知技術」のような共通の基準がありませんので、審査官が「広すぎると思う」というような漠然とした判断基準で特許になるかどうかが決定されてしまうという恐ろしい状態になっていますので、その判断基準のばらつきは絶望的なほど大きくなる可能性があります。例えば、審査官Aは、サポート要件の判断が甘く、審査官Bは、サポート要件の判断が厳しいとすれば、特許になるか否かは、発明の内容ではなく、審査がどの審査官に割り振られるかによって決まってしまいますが、そのような状態が特許法の法目的に叶うはずがありません。
 以上の点を考慮すると、サポート要件の審査においても、個々の審査官が何の根拠もなく主観的判断を行うのではなく、何らかの客観的基準に基いて判断を行うべきことは明らかであると思われます。その客観的基準としては、近接した分野の登録例において、どの程度の拡張ないし一般化が許容されているかが重要な資料とすることが合理的であると思われます。過去の多くの案件で許容されている程度の拡張ないし一般化が許容されないとすれば、特許庁の判断基準のばらつきが著しく、特許庁の信頼の失墜に繋がるからです。
本発明の内容
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 このように、本発明は、化学分野の発明の中では、物の有する機能・特性等と、その物の構造との関係を理解することが比較的容易であるので、拡張ないし一般化できる程度は広くなると解釈すべきであると思われます。
過去の登録例
 過去の登録例としては、以下のものがあります。
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過去の登録例と本発明の比較
 上記の特許では、本願と同様の限定内容であり、実施例は、本願よりもはるかに少なくなっています。それにも関わらず、サポート要件について指摘されずに特許になっています。
 上述したように、サポート要件の審査においては、審査官は、審査の著しいばらつきを防ぐために、何らかの客観的基準に基いて判断を行うべきことは明らかであり、その客観的基準としては、近接した分野の登録例において、どの程度の拡張ないし一般化が許容されているかが重要な資料とすることが合理的であると思われます。
 そして、上記の通り、近接した分野の多数の登録例において、本願と同程度か又はそれ以上の拡張ないし一般化が可能であると判断されています。そうすると、本願のサポート要件についても、これらの登録例を参照して判断されるべきものと思われます。
 同じ人が同じような発明を審査しても、その日の気分によって、「広すぎる」と感じる日もあれば、「問題ない」と感じる日もあります。別の人が同じような発明を審査した場合、「広すぎる」と感じる人もいれば、「問題ない」と感じる人もいるでしょう。このような極めて曖昧な判断基準によってサポート要件が判断されることは、競合企業間の競争に対して著しい不公平を生じさせるものであり、特許法が許容しているものではありません。
審査基準の規定
審査基準には、以下の記載があります(2.2.1.4 第36条第6項第1号違反の拒絶理由通知(1))。
審査官は、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することができないと判断する場合は、その判断の根拠(例えば、判断の際に特に考慮した発明の詳細な説明の記載箇所及び出願時の技術常識の内容等)を示しつつ、拡張ないし一般化できないと考える理由を具体的に説明する。また、可能な限り、出願人が拒絶理由を回避するための補正の方向について理解するための手がかり(拡張ないし一般化できるといえる範囲等)を記載する。
 この規定によれば、審査官殿は、拡張ないし一般化できないと考える理由を具体的に説明する義務を負っています。上記の特許で示したように、本発明の技術分野において、同様の限定内容であるにも関わらず、サポート要件違反は問題となっていません。この点を考慮すると、単に、「一般に、・・・」というような一般論を述べるだけでは、審査官殿の説明義務は、果たされたとは言えません。なぜなら、・・・という内容は技術常識であり、過去の登録例の審査官も当然、ご存知です。そして、これらの審査官は、そのような技術常識が存在することを理解した上で、本願と同程度の限定内容の表現は、サポート要件違反にはならないと判断したのですから、上記の一般論は、サポート要件の理由付けとしては不十分です。
 従って、審査官殿は、本願について、同じ分野の特許よりも厳しい基準が適用されるべきであることの具体的な理由を提示する義務を負っており、この理由を提示する義務を果たさないままサポート要件の拒絶理由を維持することは、審査基準上、認められておりません。
 また、審査官殿が、先達の判断内容を全く尊重せずに、独自の考えで査定を行う権限を有していることは存じ上げております。しかし、本件は、拒絶査定後には審判においてサポート要件違反の当否が争われることになります。そこでは、当然、特許庁の公式見解として、サポート要件の判断がなされ、その過程では、当然、過去の登録例は参酌されるはずです。そうであれば、審査官殿においても、過去の登録例を十分に参酌なされた上で、本願に対しても、それと同等の基準において、特許庁を代表するお立場として、サポート要件の判断を行って頂ければと思います。

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