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クレームの補正に合わせて明細書を補正すべきか?

2013.02.20

伊藤 寛之

出願当初は、クレームと、明細書の解決手段の内容は一致していますが、審査過程でクレームを補正した場合、明細書の補正をしなければクレームと明細書の内容が不一致になってしまいます。クレームと明細書の内容を一致させるべきかどうかについては、弁理士の間でも意見が分かれます。
クレームと明細書の関係についての考え方には2通りあります。
1つ目は、クレームは、明細書に記載されている発明から権利化を望むものを抜き出して記載したものであるという考え方です。この考え方によれば、明細書とは、技術を公開するための書面です。そして、公開した技術の中から特に優れたものに対して、特許法が特許を付与するという考えになります。この考え方によれば、クレームが明細書と一致している必要はありません。出願当初にクレームと明細書が一致しているのは、単に、明細書に開示した発明について精一杯広い権利が欲しいから一致するためであり、広い権利がとれなければ、明細書に開示された発明のうち、より効果の大きい発明についての権利化を主張することになります。
2つ目の考えは、明細書は、クレームに開示された発明を説明するための書類であると考えです。クレームが中心で、それを説明するための附属書類が明細書という位置づけであると考えると、明細書の内容は、当然、クレームの内容と一貫している必要があります。
どちらの考えが正しいとかではなく単なる好みの問題ですが、私は、前者の考え方に基いて、明細書はあまり補正しないことにしています。その理由は以下の通りです。
・特許法上求められているのは、クレームに記載した発明が進歩性等の要件を満たしていること、その発明が明細書で実施可能に説明されていることであって、クレームと解決手段の記載の整合性は求められていない
・明細書の補正にかける時間(=クライアントへの請求費用)をできるだけ減らしたい
つまり、明細書の補正は、必ずしも必要ない(=無駄)だからしないことにしています。
但し、審査官によっては整合性を求める人もいて、その場合は、無駄な抵抗をせずに明細書を補正します。特に化学分野では、多くの審査官が、クレーム補正によって請求項1の範囲から外れた実施例がある場合、「参考例」にするように求めてきます。従って、化学分野に関しては、そのような無駄な拒絶理由を避けるために、予め明細書中の表などの記載を補正することが多いです。電気・構造分野では、そのような指摘をする審査官はほとんどいません。化学分野では、クレームと表の整合性が取れていないと訳が分からなくなるので、特許公報の可読性を高めるために特許庁がそういう政策にしているのでしょう。たぶん。
追記:Edison @patenchuさんからのご指摘
日本では、査定後の分割出願は直前の範囲でしなければならないので、特許明細書は補正しない方が良いという認識です。
→同意します。

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