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もっと恐怖な外国企業の実用新案 補足の補足

2012.03.20

伊藤 寛之

SK特許業務法人 特許実務メモ  もっと恐怖な外国企業の実用新案 補足に対してコメントありましたので、補足します。
> 前回のコメントに対して、ご解説下さりありがとうございます。
>
> 登録性が疑わしい登録実用新案については、第三者が評価の請求をすることができます。審査官が無効資料を見つければ、情報提供をするまでもなく、実用新案権者は訴訟で権利行使ができません。
>
> そして、一旦評価の請求がされてしまうと、一定期間経過後は実案に基づく特許出願もできなくなります。また、実案では請求の範囲を減縮する訂正も1回に限られています。
>
> なお、海外に住所を有する会社から、損害賠償請求を取ることが難しいのは確かです。しかし、日本に営業所等のない会社の場合、訴えを提起するのに担保が必要なはずで、そこからいくらかは損害賠償も取れるはずです。
>
> そもそも、否定的な評価書を基に訴訟を起こし、裁判所も無効理由があると判断した場合に、29条の3が適用されないという話は、にわかに信じがたいです。


無効の評価書で訴訟を行った事例が一例もないので、誰も確かなことは知らない、という前提でお願いしますね。
以下に述べる私の考えも何の根拠もないただの推論です。
特許では、ほぼ全てのケースで、審査官は、拒絶理由通知を打ってきますが、きちんと反論すれば多くの場合は拒絶理由は解消します。評価書は、最初の拒絶理由通知に対応しますが(審査基準では、一応、「査定」に対応すると書いていますが、審査官がどの程度それに従うのかは全く不明ですし、権利者側からの反論なしに、審査官が客観的な判断を行うことはできないと思います。)、それに対する反論の機会はありません。私の認識では、その反論の機会が無効審判や訴訟だと思っています。評価書での引例が本願とまるっきり同じだと反論の余地がありませんので、その場合、実用新案権者は、責任を追求される可能姓が高まると思います。一方、進歩性判断で、組み合わせ容易かどうかの判断は、非常に微妙な判断になることが多いと思います。実際、このようなケースの方が多いと思います。その場合、合理的な反論ができれば、実用新案権者の責任を追求される可能姓は下がると思います。それは29条の3の文言から明らかだと思います。技術と特許の専門家が協議をした上で、進歩性を有する合理的な理由があると確信して権利行使をしたことが、29条の3の「相当の注意をもつて」に該当しないとすれば、いったい、どうすれば「相当の注意をもつて」に該当するのか全く不明になります。
実務上の感覚では、最初の拒絶理由通知は、打たれて当然であって、そこから特許性を主張する論理構成を考えるのが弁理士の仕事です。拒絶理由通知が打たれたから、その発明は特許性がないんだ、と考える弁理士は非常に少ないと思います。評価書もその程度の扱いでいいのかなと思います。もちろん、悪い評価の評価書に基づく権利行使は不可能であるという考えの方が正しいかも知れませんが、裁判例が全くないので、どちらが正しいのかの判断は不可能だと思います。
実用新案から特許への変更の機会が限定的であり、訂正の機会も限定的であることは、実用新案が特許よりも使いにくいことの根拠にはなりますが、だからといって実用新案が怖くないという理由になりません。請求項をたくさん並べておけば、訂正を行う必要はありません。ちなみに中国では、登録後に請求項を減縮する機会はありませんので、全ての技術事項を請求項に並べておく必要があります。そのような前提で作成された明細書を基礎として、日本出願されたものは、十分な数の請求項が揃っている可能性が高いと思います。
日本に営業所等のない会社の場合、訴えを提起するのに担保が必要なはず」とのことですが、この点は、私は知りませんでした。ありがとうございます。ただ、訴訟提起に関連した担保供託という制度が、実際に、実用新案権の行使の際に適用されるのか不明ですし、警告の段階では担保は必要ありません。
否定的な評価書を基に訴訟を起こし、裁判所も無効理由があると判断した場合に、29条の3が適用されないという話は、にわかに信じがたい」とのことですが、実際にどうなるのかは誰も分からないと思います。分かっていることは、否定的な評価書を基に訴訟を起こした人も誰もいないし、29条の3に基づいて損害賠償された人も誰もいないということです。つまり、29条の3の解釈が固まっていないということです。
記事のタイトルは刺激的なものにしましたが、私の考えは、「実用新案権は危険」ということではなく、「実用新案権はもしかしたら完全に安全ではない場合があるかも知れない」という程度です。実務上は、権利者側に立っても、被疑侵害者側に立っても、発明の内容や引例の強さ等を総合的に判断して、対応を考えます。相談があったときに、「権利行使しても大丈夫です。」とか、「実用新案権は無視しても大丈夫です。」とかは口が裂けても言いません常に、答えは「微妙です」とした上で、色々な要素を検討して対応案を提案します。


http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00055.html#34
【Q34】仮差押え,仮処分等の裁判上の発令を受けるための担保(保証)供託は,どのようにしたらよいのですか。
裁判上の担保(保証)供託
訴えの提起,強制執行の停止若しくは続行,仮差押え,仮処分の執行又は取消し等,当事者の訴訟行為又は裁判上の処分に関連して,当事者は,自己の負担とされる訴訟費用の支払を担保し,又は自己の訴訟行為により相手方に生ずる損害等を担保するため,裁判所から担保の提供を要求されることがあります。このような担保の提供のためにする供託を,裁判上の担保(保証)供託といいます。

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