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小僧寿し事件に照らしたパロディ商標(面白い恋人)の考察

2012.09.12

伊藤 寛之

吉本興業が「面白い恋人」という商標を付したお菓子を販売して、本家の石屋製菓から訴えられている事件が話題になっています。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9D%A2%E7%99%BD%E3%81%84%E6%81%8B%E4%BA%BA
いうまでもなく、この商標は、「白い恋人」のパロディですが、パロディ商標の問題はなかなかやっかいです。
商標法は、登録商標と同一又は類似の商標に対する差止めを認めています。「類似」の意味が問題になりますが、小僧寿し事件の最高裁判決は、以下のように判示して、「出所の誤認混同を生じないものは類似ではない」と判断しています。
「 2 商標の類否は、同一又は類似の商品に使用された商標が外観、観念、称呼等によって取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、かつ、その商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。右のとおり、商標の外観、観念又は称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出所を誤認混同するおそれを推測させる一応の基準にすぎず、したがって、右三点のうち類似する点があるとしても、他の点において著しく相違するか、又は取引の実情等によって、何ら商品の出所を誤認混同するおそれが認められないものについては、これを類似商標と解することはできないというべきである(最高裁昭和三九年(行ツ)第一一〇号同四三年二月二七日第三小法廷判決・民集二二巻二号三九九頁参照)。」
では、一般的な需要者は、「面白い恋人」を「白い恋人」を間違って購入しているのでしょうか?もしかしたら、本当に間違って購入した人もいるかもしれませんし、「白い恋人」の新しいバージョンとして「面白い恋人」が発売されたと思って購入した人もいるかも知れませんが、どちらかというと少数派であり、大部分の人は、「面白そうやな」「買って帰ってネタにしよ」と思って、「白い恋人」のパロディであると分かって購入しているでしょう。
また、この事件がニュースになる前は誤認混同した人がいたとしても、これだけ大々的にニュースが流れれば、通常の注意力を持った人であれば、「面白い恋人」を「白い恋人」と間違えることはないでしょう。
商標法は、「類似」ではない商標に対しては無力です。不正競争防止法も無力です。「面白い恋人」と「白い恋人」が非類似であると判断されてしまうと、石屋製菓は何もできないことになります。
もっとも、「面白い恋人」は、「白い恋人」の著名性に便乗していることは明らかであり、この状況を放置することは、あまり健全ではないとの判断の下で、裁判所は、なかば強引に「類似」の認定をするかも知れません。
また、商標登録第1656297号では、以下の画像が商標登録されており、「面白い恋人」のパッケージの雰囲気は、若干これに近いので、この類似性が認められるかも知れません(ただ、山と大阪城を類似というのも無理があるかも知れません。)
ただ、仮に、この画像商標について類似性が認定されても、吉本は、次に、吉本新喜劇をモチーフとした画像に変更して販売するでしょうから、本質的な問題解決になりません。
このように、パロディ商標は、商標法・不正競争防止法の穴とも言える問題です。商標法・不正競争防止法の下で吉本を止めることを非常に難しいと思いますが、このような商売が横行してしまうのも問題があるかも知れませんので、裁判所は、何らかの法理論を開発するかも知れません。「類似」の概念を広げるしかありませんが、それは、商標法の基本的な概念を変えてしまう非常に大きな判断であり、小僧寿し事件の最高裁判決と矛盾するかも知れません。

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