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地域団体商標について

2010.11.17

伊藤 寛之

喜多方ラーメン登録認めず 地域団体商標で知財高裁 有名になりすぎ厳しい?
「喜多方ラーメン」の商標登録が却下されたということで、地域団体商標が話題の登っていますので、
地域団体商標について簡単に解説します。
地域団体商標は、2つの点で特殊性を有しています。
(1)商標権者の特殊性
 通常の商標は、自らが使用する目的で取得します。例えば、ソニーは、自身が使用する目的で「VAIO」という商標を取得します。他人に使用させてライセンスをせしめてやろうという目的の出願は、法律上は、登録が認められません。実務上は,指定商品が多い場合(類似群コードで8個以上)に使用の意志があることの証明が求められます。地域団体商標では、組合などの構成員が使用すればよく、組合自身が使用する必要がありません。
(2)識別力の要件の緩和
一般には、地域名+商品名からなる商標は、登録されません(3条1項3号)。例えば、「大阪たこ焼き」「梅田お好み焼き」などは、ダメです。このような商標は使用したいと考える人が多いので、特定人に独占させるのが問題だからです。「喜多方ラーメン」もこの原則によれば、×です。
その例外が3条2項で、商標の使用を継続して行った結果、識別力が増した場合に、登録を認める規定ですが、適用の基準が極めて厳格で、適用例は、限られています。以下のファイルのP4の審決例を参照
このような基準によれば、地域名+商品名は、なかなか登録されないので、地域ブランドが育ちません。そこで、地域ブランド育成するために導入されたのが、地域団体商標制度で、この制度のもとでは、商標が周知であれば、地域名+商品名からなる商標であっても登録を認めることになりました。この制度のもとでこれまで450件程度が登録になっています。
特許庁による解説:地域団体商標制度
「喜多方ラーメン」の例では、あまりにも多くのラーメン屋が喜多方ラーメンの名称を使用しているので、「喜多方ラーメン」が商標ではなく、普通名称として認識されるようになってしまったという理由で登録が退けられています。(11/18削除)
「喜多方ラーメン」の例では、「その商標が使用をされた結果自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている」という要件が充足されないことを理由に登録が拒絶されました。
このケースの指定役務は、「喜多方市におけるラーメンの提供」です。「喜多方ラーメン」と聞くと、「ああ、あの喜多方市で食べられるラーメンね」と連想する人が多ければ、上記要件が充足される可能性があります(「喜多方市で食べられるラーメン」と団体との結び付きも必要です)。
一方、「喜多方ラーメン」と聞くと、「ああ、太い縮れ麺でさっぱりしたスープのラーメンね」と連想する人が多ければ、上記要件が充足しないことになります。
極端な例は、さつまいもや佃煮です。
「さつまいも」と聞くと、「薩摩地方で取れる芋」と連想する人よりも、「皮が紫色でほんのり甘くて細長い芋」と連想する人が圧倒的に多いはずです。「越前ガニ」と聞くと、「越前地方で取れたカニ」を連想しますが、「佃煮」と聞いても、「佃島で作られた煮物」を連想する人はいません。
判決では、この点について以下のように述べられています。
「そうすると,少なくとも喜多方市外,とりわけ喜多方市から遠隔する東京都内などの需要者及び取引者においては,「喜多方ラーメン」の表示ないし名称と,本願商標の指定役務たる「福島県喜多方市におけるラーメンの提供」との結び付きは相当程度希薄化しているということになる。」
「喜多方市外のラーメン店チェーン「喜多方ラーメン坂内」,「喜多方ラーメン坂内・小法師」でラーメンの提供を受けた需要者においても,株式会社麺食やそのフランチャイジーの業務に係る商品ないし役務との認識を超えて,原告の構成員である坂内食堂の業務に係る商品ないし役務を示すものとして認識されるか否かは,証拠上判然としないといわざるを得ない。」
判決中の希薄化の問題が最も深刻です。薩摩地方のさつまいも農家が全員がさつまいも共同組合に加入して、「さつまいも」を出願しても、地域団体商標を取得することはできません。
判決中には、有名店が加入していないことも指摘していますが、例えば、有名店が全て加入してから再度出願を行っても、上記の希薄化の問題が解決されない以上、再度、拒絶になる可能性が高いと思います。
喜多方以外で「喜多方ラーメン」の名称を使用するラーメン屋は今後もどんどん増えるでしょうから、再出願を行った場合、状況は今よりも悪くなっている可能性も高いと思われます。
希薄化がさらに進めば、普通名称化します。さつまいも、佃煮は完全に普通名称化しています。
元々商標だったものが普通名称化したものは、身の回りにたくさんあります。ピザにかけるあの辛くて赤い液体を「タバスコ」と呼ばなければ、なんて呼べばいいんだろう?っていうのが普通名称化です。
(商標登録の要件)
第3条 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
1.その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
2.その商品又は役務について慣用されている商標
3.その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状(包装の形状を含む。)、価格若しくは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、数量、態様、価格若しくは提供の方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
4.ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
5.極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標
6.前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標
2 前項第3号から第5号までに該当する商標であつても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものについては、同項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる。
(地域団体商標)
第7条の2 事業協同組合その他の特別の法律により設立された組合(法人格を有しないものを除き、当該特別の法律において、正当な理由がないのに、構成員たる資格を有する者の加入を拒み、又はその加入につき現在の構成員が加入の際に付されたよりも困難な条件を付してはならない旨の定めのあるものに限る。)又はこれに相当する外国の法人(以下「組合等」という。)は、その構成員に使用をさせる商標であつて、次の各号のいずれかに該当するものについて、その商標が使用をされた結果自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、第3条の規定(同条第1項第1号又は第2号に係る場合を除く。)にかかわらず、地域団体商標の商標登録を受けることができる。
1.地域の名称及び自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する文字のみからなる商標
2.地域の名称及び自己又はその構成員の業務に係る商品又は役務を表示するものとして慣用されている名称を普通に用いられる方法で表示する文字のみからなる商標
3.地域の名称及び自己若しくはその構成員の業務に係る商品若しくは役務の普通名称又はこれらを表示するものとして慣用されている名称を普通に用いられる方法で表示する文字並びに商品の産地又は役務の提供の場所を表示する際に付される文字として慣用されている文字であつて、普通に用いられる方法で表示するもののみからなる商標
2 前項において「地域の名称」とは、自己若しくはその構成員が商標登録出願前から当該出願に係る商標の使用をしている商品の産地若しくは役務の提供の場所その他これらに準ずる程度に当該商品若しくは当該役務と密接な関連性を有すると認められる地域の名称又はその略称をいう。
3 第1項の場合における第3条第1項(第1号及び第2号に係る部分に限る。)の規定の適用については、同項中「自己の」とあるのは、「自己又はその構成員の」とする。
4 第1項の規定により地域団体商標の商標登録を受けようとする者は、第5条第1項の商標登録出願において、商標登録出願人が組合等であることを証明する書面及びその商標登録出願に係る商標が第2項に規定する地域の名称を含むものであることを証明するため必要な書類を特許庁長官に提出しなければならない。

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