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米国では差止請求権は限定的(eBay最高裁判決)

2010.10.26

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日本では、差止請求権は条文に規定されていて、特許権が侵害されれば、有無を言わさず、差し止めることが可能です。


(差止請求権)
第100条 特許権者又は専用実施権者は、自己の特許権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。


一方、アメリカでは、差止請求(injunction)については、条文では以下のように「 in accordance with the principles of equity(イクイティの原理に従って)」差止を認めることができると、規定されています。


§ 283. Injunction
The several courts having jurisdiction of cases under this title may grant injunctions in accordance with the principles of equity to prevent the violation of any right secured by patent, on such terms as the court deems reasonable.


equityの正確な意味を理解するのは非常に難しいですが、だいたいの雰囲気としては、「裁判官の正義感」ってな感じの訳が近いと思います。つまり、裁判官は、特許侵害があったとしても、差止を認めるのが適切でない場合は、差止を認めなくても問題ありません。日本では、裁判官には、そのような選択肢はなく、特許権侵害を認めるとほぼ自動的に差止請求がついてきます。
従来、CAFCは、このような条文の規定にも関わらず、特許権侵害があった場合は、かならず差止請求が認められるべきであると判断していました。このCAFCのやり方に異議を唱えたのがe-Bay最高裁判決です。
eBay事件についてJETROによる日本語の解説
eBay最高裁判決の全訳
Wikipedia(英語)での詳細な解説

eBayは、日本でいうヤフオクみたいなもので、非常に多くの人が利用しています。特許権者MercExchangeは、数人でやっている非常に小さな会社です。オークションサイトも運営していません。
最高裁は、差止を認めるかどうかは、以下の4つの要件に照らして判断すると判示しました。
(1) 耐え難い損害(irreparable injury)を被ること
(2) その損害は、損害賠償だけでは救済が不十分となること
(3) 原告・被告双方の困窮程度の均衡(balance of hardship)を考慮すること
(4) 差止めを行っても公益(public interest)が損なわれないこと

eBay事件によって、特許権侵害があっても差止が必ずしも認められないということが確定しました。
電気やソフトの分野では、1つの製品に非常に多くの特許が関与します。差止請求権が無条件に認められる場合、実施を行わない者は、そのうちたった一つを保有するだけで、実際に製造販売する者に対して非常に強い立場に立ちます。実施をしていない者は、自分が訴えられる危険性がないので容赦なく権利行使を行うことができますので、産業が大きな混乱に陥る危険性があります。eBay判決のように差止請求を限定的に認めるようにすれば、実施をしていない者が過度に強い立場に立つことがなくなるので、その点からはeBayのような判断は好ましいと思います。
一方、eBay判決は特許の価値を低減させてしまうので、一生懸命研究開発を行っているベンチャー企業にとっては酷な判決だと言えると思います。

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