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特許出願のリスク(商標登録出願との比較)

2013.02.27

伊藤 寛之

特許出願のリスクについて説明します。
商標については、商売に使用するものについては、何も考えずに全て出願です。出願をすることのリスクが非常に小さいからです。特許については、リスクが大きいので、出願をするかどうか十分に検討すべきです。
1.秘密開示リスク
 特許の明細書には、企業秘密である研究成果が含まれますが、これは全て1年半の経過後に公開されてしまいます。公開されてしまっても問題ないか、十分に検討すべきです。
 商標登録出願には、このようなリスクはありません。
2.不登録リスク
 特許の場合、せっかく出願して審査請求をしても、登録になる割合は、50%程度です。商標の場合、事前に類似商標を調査して出願すれば登録率は90%を超えますし、拒絶になる案件は、拒絶覚悟で一か八か出願したものであって、識別力が十分になる商標の登録率は100%に限りなく近づきますし、その商標を無効にすることはほとんど不可能です。
3.費用回収不能リスク
 特許の明細書を自分で書くのは容易ではないので、弁理士に依頼することが多いでしょう。その場合、登録までの総費用は少なくとも50万円程度になります。自分で書いて、自分で中間処理を行ったとしても、審査請求料が高額なので15万円程度になります。これだけの費用を回収することができるかどうか、十分に検討すべきです。1個販売して1000円の利益がでる商品が年間に10個しか売れない場合、特許出願をしても費用回収の見込みがないかもしれません。
 一方、商標は、費用回収という観点からみると、現金での回収の見込みは、ほぼゼロで、ブランド力強化によって間接的にペイすることがあるだけです。
 ただ、重要なことは、商標は、自分が出願しない限り、他人の取得を阻止することは極めて困難です。一方、特許は、公開してしまえば、他人がその発明について特許を取ることは不可能になります。従って、商標は、費用回収不能のリスクがあっても出願すべきであるのに対し、特許は、ノウハウにするか、公開するか、出願すべきか、じっくり考えるべきです。
4.無効リスク
 特許は、世界中の文献が引例になるので、審査官が特許にしても、競合が本気で引用文献を探せば、審査官が知らなかった文献がほぼ確実に見つかります。従って、無効リスクは、大きく、裁判でも半分以上の特許は無効であると判断されています。一方、商標は、日本で登録されている商標と、日本で周知になっている商標が引例です。これ以外にも少しありますが、例外的です。従って、審査官が知らない商標によって無効にされるリスクは、特許に比べるとはるかに小さいと言えます。
5.権利行使不能リスク
 特許の権利行使は容易ではありません。製造方法の場合、競合の工場や研究所に押し入ることはほぼ不可能です。製品を分解して分かる発明であればいいですが、そうでない発明の場合、競合の製品が特許の請求の範囲に含まれているかどうかの判断は容易ではありません。これに対して、商標は、見た瞬間分かります。
6.無視リスク
 特許は、侵害者に警告をして実施を止めるようにいっても、無視されることがあり、その場合、裁判で決着つけるしかありませんが、それには多額の費用と時間がかかりますので、実際は、あまり現実的ではありません。特許侵害に対して、検察は決して動いてくれません。
 これに対して、商標権侵害は、警察に訴えることができます。特許権侵害に比べると、商標権侵害は、警察が動いてくれる可能性がはるかに高いです。
このように、特許出願には様々なリスクがあり、支払ったコストに見合った利益を得ることは必ずしも容易ではありません。ただ、もちろん、特許出願にも利益はあります。多くのまともな企業は、競合の特許を侵害しないようにします。気づいていないところで競合を苦しめていますし、特許を取得したとたんに、偽物が市場から消えたという例もあります。大事なことは、特許は、一旦公開されると、その後、権利取得が不可能になることです。競合が類似品を発売して、腹を立てて、弊所に相談に来られることも多いですが、競合の行為は基本的に合法です。特許権がなければ、何もできません。

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