最後の拒絶理由通知や審判請求の際に、引用文献と差別化する補正を行ったら、新しい文献が引用されて→補正却下→拒絶査定になってしまった経験がある方も多いのではないでしょうか?
ちょっとひどいなぁと思いつつも、条文上は、止むを得ないと思っていました。
それだけに、この判決は画期的であり、特許庁実務に大きな影響を与えると思います。
詳しい解説は、以下の記事で。
パテント・リバー: 審判段階での補正却下手続が違法と判断された重要判決
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平成22年(行ケ)第10298号 審決取消請求事件
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(審判手続の法令違背)について
(1) 原告は,審決が,拒絶査定における引用文献と異なる引用文献を用いて補
正発明の進歩性を否定したものであり,原告には,拒絶査定の理由と異なる拒絶の
理由について意見書を提出する機会が与えられなかったから,審判手続には特許法
159条2項で準用する同法50条の規定に違反する瑕疵があり,当該瑕疵は審決
の結論に影響を及ぼす違法なものであると主張する。
(2) まず,審決に至るまでに審査官及び審判官が示した文献に焦点を当てて本
件の経過をみるに,審査での拒絶査定(甲11)で示されたのは,刊行物1(特開
昭59-171588号公報)及び特開昭53-25072号公報(甲3)の公知
文献のほか,特表平9-500709号公報及び実願平4-27639号(実開平
5-87352号)のマイクロフィルムであったのに対し,原告が審判請求ととも
にした本件補正後に審判で示された審尋書(甲15)で,刊行物1のほか,新たに
刊行物2(実願昭61-179182号(実開昭63-85495号)のマイクロ
フィルム)と実願昭63-111582号(実開平2-32822号)のマイクロ
フィルムを提示して拒絶すべきものとする前置報告書の内容が原告に示され,改め
て拒絶理由が通知されない限り特許法17条の2所定の補正はできないが,審尋に
回答するよう求め,原告はこれに対して,本件補正は独立特許要件を充足すること,
また,補正案を示して更に請求項1を補正する機会を与えてほしいことなどを内容
とする回答書(甲16)を提出したが,そのまま審決に至ったというにある。
(3) 本件出願に関して争点となっている法条については,平成5年法律第26
号により改正された特許法17条の2及び50条が適用されるところ,本件補正は,
平成6年法17条の2第1項3号に該当する拒絶査定不服審判請求日から30日以
内に行う補正であるから,同条の2第3項ないし5項に規定される要件を満たす必
要があり,特許請求の範囲の減縮を目的とする補正について同条の2第5項により
準用される同法126条4項は,発明が特許出願の際独立して特許を受けることが
「
できるものでなければならない」と規定するから,本件補正は,いわゆる「独立特
許要件」を充足する必要がある。
一方,同法53条は,同法17条の2第1項2号に係る補正が,同条3項から第
5項までの規定に違反している場合には,決定をもってその補正を却下すべきもの
とし,同条は,同法159条1項で読み替えて拒絶査定不服審判に準用される。ま
た,同法50条ただし書は,拒絶査定をする場合であっても,補正の却下をすると
きは,拒絶理由を通知する必要はないものとし,同条ただし書は,同法159条2
項で読み替えて拒絶査定不服審判に準用される。したがって,拒絶査定不服審判請
求に際して行われた補正については,いわゆる新規事項の追加に該当する場合や補
正の目的に反する場合だけでなく,新規性,進歩性等の独立特許要件を欠く場合で
あっても,これを却下すべきこととされ,その場合,拒絶理由を通知することは必
要とされていない。
ところで,平成6年法50条本文は,拒絶査定をしようとする場合は,出願人に
対し拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して意見書を提出する機会を与えなけ
ればならないと規定し,同法17条の2第1項1号に基づき,出願人には指定され
た期間内に補正をする機会が与えられ,これらの規定は,拒絶査定不服審判におい
て査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合にも準用される。審査段階と異な
り,審判手続では拒絶理由通知がない限り補正の機会がなく(もとより審決取消訴
訟においては補正をする余地はない。,拒絶査定を受けたときとは異なり拒絶査定
)
不服審判請求を不成立とする審決(拒絶審決)を受けたときにはもはや再補正の機
会はないので,この点において出願人である審判請求人にとって過酷である。特許
法の前記規定によれば,補正が独立特許要件を欠く場合にも,拒絶理由通知をしな
くとも審決に際し補正を却下することができるのであるが,出願人である審判請求
人にとって上記過酷な結果が生じることにかんがみれば,特許出願審査手続の適正
を貫くための基本的な理念を欠くものとして,審判手続を含む特許出願審査手続に
おける適正手続違反があったものとすべき場合もあり得るというべきである。
(4) 本件においてされた補正却下に関する事情として,① 本件補正の内容と
なる構成が補正前の構成に比して大きく限定され,すなわち,補正前発明が,駆動
力入力端と2つの駆動力出力端とを含み双方向駆動を生じさせるための洗濯機にお
いて,駆動力伝達のための機構が,
「駆動力入力を2つの駆動力出力に変換可能な歯
車箱」と一般的に記載されていたのを,本件補正は,図面等に示された実施例の内
容に即して,歯車箱内の歯車を二対の歯車部(15,28)を中心に具体的構成を
特定するものであって,補正発明の構成に係るものであるが,この新たな限定につ
き現に新たな公知文献を加えてその容易想到性を判断する必要のあるものであった
こと,② 審尋で提示された公知文献はそれまでの拒絶理由通知では提示されてい
なかったものであること,③ 審尋の結果,原告は具体的に再補正案を示して改め
て拒絶理由を通知してほしい旨の意見書を提出したこと,④ 後記2で判断すると
おり,新たに提示された刊行物2の記載事項を適用することは是認できないこと,
などの事実関係がある。本件のこのような事情にかんがみると,拒絶査定不服審判
を請求するとともにした特許請求の範囲の減縮を内容とする本件補正につき,拒絶
理由を通知することなく,審決で,従前引用された文献や周知技術とは異なる刊行
物2を審尋書で示しただけのままで進歩性欠如の理由として本件補正を却下したの
については,特許出願審査手続の適正を貫くための基本的な理念が欠けたものとし
て適正手続違反があるとせざるを得ないものである。本件においては,審判におい
ても,減縮的に補正された歯車の具体的構成に対し,その構成を示す新たな公知技
術に基づいて進歩性を否定するについては,この新たな公知技術を根拠に含めて提
示する拒絶理由を通知して更なる補正及び意見書の提出の機会を与えるべきであっ
たというべく,この手続を経ることなく行われた審決には瑕疵があり,当該手続上
の瑕疵は審決の結論に影響を及ぼすべき違法なものであるから,原告主張の取消事
由1には理由がある。