以下の論文で詳細に説明されている判例です。
非本質的な構成要件が入ってしまっていた場合に使えるかも知れません。
補正の適否に関する新しい判断類型が示された事例 知財管理 60巻(2010年) / 9号 / 1547頁
なお、補正が新規事項になるかどうかは、要旨変更(ゆるい)→直接かつ一義的(超厳しい)→自明(ちょっとゆるい)→新たな技術的事項の追加なし(もうちょっとゆるい)と変わってきました。
平成 21年 (行ケ) 10131号 審決取消請求事件
(1) 要旨変更に関する判断基準
明細書の要旨の変更については,平成5年法律第26号による改正前の特許法4
1条に「出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前に,願書に最初に添付した明細
書又は図面に記載した事項の範囲内において特許請求の範囲を増加し減少し又は変
更する補正は,明細書の要旨を変更しないものとみなす 」と規定されていた。 。
上記規定中 「願書に最初に添附した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」 ,
とは,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導か
れる技術的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係にお
いて,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は 「明細書又,
は図面に記載した事項の範囲内」においてするものということができるというべき
ところ,上記明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的
事項は,必ずしも明細書又は図面に直接表現されていなくとも,明細書又は図面の
記載から自明である技術的事項であれば,特段の事情がない限り 「新たな技術的,
事項を導入しないものである」と認めるのが相当である。そして,そのような「自
明である技術的事項」には,その技術的事項自体が,その発明の属する技術分野に
おいて周知の技術的事項であって,かつ,当業者であれば,その発明の目的からみ
て当然にその発明において用いることができるものと容易に判断することができ,
その技術的事項が明細書に記載されているのと同視できるものである場合も含むと
解するのが相当である。
したがって,本件において,仮に,当初明細書等には 「押圧部材と装置本体と ,
の螺合されていない態様」あるいは「螺合以外の手段によって移動可能」とするこ
とが直接表現されていなかったとしても,それが,出願時に当業者にとって自明で
ある技術的事項であったならば,より具体的には,その技術的事項自体が,その発
明の属する技術分野において周知の技術的事項であって,かつ,当業者であれば,
その発明の目的からみて当然にその発明において用いることができるものと容易に
判断することができるものであったならば,本件発明3を追加した本件補正は,要
旨変更には該当しないというべきである。そこで,以下,本件補正が上記要件に該
当するか否かを検討する。
(中略)
(オ) このように,周知例1ないし4の螺合に代わる各手段によって,本件発明3
の押圧部材を移動させることは,特別な工夫を要することなく当然にできるもので
あり,また,それら各手段は,本件発明の目的を変更するものでもないことが認め
られる。
ウ前記ア及びイのとおり,本件発明3について 「螺合以外の手段によって移 ,
動可能 とすることが 明細書又は図面の記載からみて出願時に当業者にとって 自 」, 「
明である技術的事項」に当たるといえるから,本件補正は,明細書又は図面のすべ
ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において 「新たな技,
術的事項を導入しないもの」であると認められる。したがって,本件補正は 「願,
書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内」の補正と認めるのが
相当である。
(4) 以上のとおりであるから,本件補正が当初明細書等の要旨を変更するもので
あって,本件特許出願の出願日を本件補正時である平成14年8月28日とみなす
べきであるとした審決の判断は誤りである。