商標「葛飾北斎」は公序良俗違反
2012.09.07
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http://shohyo.shinketsu.jp/originaltext/tm/1259787.html
第1 本願商標
本願商標は、別掲1のとおり、「葛飾北斎」の漢字を筆文字風に縦書きし、その左下に朱色の印と思しき図形を配し、さらに、その下に「KATSUSHIKA HOKUSAI」の欧文字を横書きした構成よりなり、第24類に属する願書記載のとおりの商品を指定商品として、平成19年7月10日に登録出願、その後、指定商品については、原審における同年12月29日受付け及び同20年3月10日受付けの手続補正書により、第24類「布製身の回り品,かや,敷布,布団,布団カバー,布団側,まくらカバー,毛布,のぼり及び旗(紙製のものを除く。)」と補正されたものである。
第2 原査定の拒絶の理由
原査定は、「本願商標は、『葛飾北斎』の漢字を縦書きし、その下部に前記文字の英語式氏名を表したものと認められる『KATSUSHIKA HOKUSAI』の欧文字を横書きして、かつ、朱色の印が押された構成よりなるところ、『葛飾北斎』は、江戸後期の浮世絵師(代表作「富嶽三十六景」)として、我が国はもとよりヨーロッパの人々にも広く知れている歴史上著名な人物名である。ところで、葛飾北斎に縁のある『信州・小布施』、『島根県津和野町』等、多くの地方自治体では、『北斎館』、『葛飾北斎美術館』を設立又は『葛飾北斎展』を開催し、『葛飾北斎』の名称を案内書、旗、絵はがき等に使用して同人の偉業を広く伝えているところである。そうとすれば、上記の如く多くの自治体等が案内書、旗、絵はがき等に使用している『葛飾北斎』の名称を、一私人である出願人が自己の商標として独占使用することは、公の秩序及び一般的道徳観念に反し、穏当ではない。したがって、この商標登録出願に係る商標は、商標法第4条第1項第7号に該当する。」旨認定、判断し、本願を拒絶したものである。
第3 当審における証拠調べ通知
平成23年7月7日付けで、本願商標が商標法第4条第1項第7号に該当するものとして請求人に通知した証拠調べ通知の内容は、別掲2及び3のとおりである。
第4 当審の判断
1 商標法第4条第1項第7号について
商標法第4条第1項第7号にいう「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」には、(ア)その構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、矯激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字又は図形である場合、(イ)当該商標の構成自体がそのようなものでなくとも、指定商品又は指定役務について使用することが社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反する場合、(ウ)他の法律によって、当該商標の使用等が禁止されている場合、(エ)特定の国若しくはその国民を侮辱し、又は一般に国際信義に反する場合、(オ)当該商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあり、登録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないような場合、などが含まれるというべきである(知的財産高等裁判所 平成17年(行ケ)第10349号 平成18年9月20日判決言渡)。
ところで、周知、著名な歴史上の人物名は、その人物の名声により強い顧客吸引力を有する。その人物の郷土やゆかりの地においては、住民に郷土の偉人として敬愛の情をもって親しまれ、例えば、地方公共団体や商工会議所等の公益的な機関が、その業績を称え記念館を運営していたり、地元のシンボルとして地域興しや観光振興のために人物名を商標として使用したりするような実情も多くみられるところであり、当該人物が商品又は役務と密接な関係にある場合はもちろん、商品又は役務との関係が希薄な場合であっても、当該地域においては強い顧客吸引力を発揮すると考えられる。このため、周知、著名な歴史上の人物名を商標として使用したいとする者も、少なくないものと考えられる。一方、敬愛の情をもって親しまれているからこそ、その商標登録に対しては、国民又は地域住民全体の反発も否定できない。
(参考 商標審査便覧42.107.04「歴史上の人物名(周知・著名な故人の人物名)からなる商標登録出願の取扱いについて」http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/shiryou/kijun/kijun2/syouhyoubin.htm)
そうとすれば、周知、著名な歴史上の人物名からなる商標は、これを特定の者の商標として、その登録を認めることは当該人物名を使用した公益的な事業を阻害するおそれがあるとみるのが相当であるから、当該商標は、社会公共の利益に反し、社会の一般的道徳観念に反するものといわなければならない。