期限管理・事務書類作成→データベース的思考で考える
2012.09.06
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期限管理は、いうまでもなく特許事務所で最も重要な仕事の一つであり、どこの事務所でもミスを防ぐべく、工夫を凝らしていると思います。
弊所では、開業して、すぐに、この業界で最もシェアが大きい市販の期限管理ソフトを導入しました。100万円以上する非常に高価なものです。
このような市販の期限管理ソフトは多くの人が使っていて歴史があるので、バグの発生頻度が低く抑えられる点に利点があります。ただ、重大な欠点として、作成したのが特許事務所の所員ではないので、一見、使いやすいようには見えても実際に使ってみると不満だらけな面もあります。また、データベースのデータを用いて、報告書等を作成する機能は一応はありますが、あまりにも使いにくいので、ほとんど使っていませんでした。
あまりにもインターフェースが悪いので使うのを止めて、独自でデータベースを作成しようかとも考えましたが、バグを十分に取り除くには多大な時間と手間がかかってしまい、その間に事故が発生するリスクを考慮して、止めました。
色々と考えた挙句、市販の期限管理ソフトをメインデータベースとして利用しつつ、インタフェース部分のプログラムを自分で作成することにしました。こうすることによって、期限管理の高い信頼性を維持しつつ、使いやすいものができると考えたからです。
色々と試行錯誤した結果、ウィンドウズマクロを使えば定期的にデータベースのデータを自動的にエクスポートすることができ、このエクスポートしたデータから必要なデータをエクセルVBAを使って抽出し、それをワードに流しこむことによって、ワードファイルの任意の位置にデータベースのデータを自動入力することに成功しました。
ワードの雛形は、だれでも簡単に作成できるようにしました。根幹となる部分のプログラムは私自身が作成し、細かい点の修正を行なっていますが、インタフェース部分はただのワードですので、誰でも自由に編集でき、新しい雛形を作成することができます。この雛形には、データベースのデータを簡単に流し込めますので、あらゆる書類のデータ入力をほぼ自動化できました。
例えば、特許庁への提出書類は、ほぼ全自動です。整理番号・識別番号・出願人・出願番号など、全て自動で入力されます。また、クライアントへの報告書類もほぼ全自動です。出願日・公開日・公開番号・クライアント番号・クライアント担当者などが自動で入力されますので、入力された内容を念のため、確認すれば報告書作成は完了です。
このような方法のメリットの1つは、事務所類の作成時間が大幅に減少することです。私がこのシステムを作る前は、必要なデータを色々な書類を見て、コピペで入力していました。例えば、1つの書類の書誌事項の記入に10分かかっていたのが、弊所のシステムだと1秒になります。
そして、より大きなメリットは、入力ミスが減少することです。コピペだと、コピペするデータを間違える可能性があり、書類の精度は、事務員のスキルに大きく依存します。弊所のシステムだと、事務員のスキルに関わらず、正しい位置に正しいデータが入力されます。番号の手打ちは、もっと最悪です。必ず一定の頻度でミスが発生します。弊所では書誌事項の手打ちは禁止しています。
また、さらに大きなメリットは、データベースの内容をチェックすることができることです。データベース管理で最も重要なことは、正しいデータを入力することです。ここを間違えると全てが終わりです。出願番号の桁間違い、出願日の入力間違いなどが起こると、期限管理が正常に機能しませんので、期限渡過の原因になります。多くの事務所ではダブルチェック・トリプルチェックを行なってデータベースの内容をチェックしていると思います。
弊所のシステムでは、報告書類の作成行為がそのままデータベースの入力データのチェックになります。報告書に記載されている出願日・出願番号は、データベースの内容と必ず一致しています。事務員が報告書作成時に、出願書類の受領証と、報告書に自動入力されているデータを比較して、一致していることを確認します。その後、技術担当が再度、同じ作業をします。やっていることは、報告書のチェックです。しかし、それが自動的にデータベースの入力データのチェックにもなっています。報告書のデータがミスがあると、報告書を直すのではなく、データベースのデータを直して、そこからデータを引き出して、報告書を作成します。このような方法によれば、データベースの入力ミスを極限まで減らすことができます。
このように弊所では、データベースのデータを用いて全ての書類を作成できるシステムを作成しました。弊所の業務量が比較的少ない時に私が3週間ほどかけて、だいたいの形を作成して運用を開始し、その後、改良を続けてきました。問題があれば、その問題を解決するための仕組みを導入することは簡単です。市販のソフトは、改良の要望を出しましたが、一向に改善されません。また、高価なシステムは500万円以上しますし、システムを全て独自に開発すると数千万円以上、ヘタしたら数億かかると言われています。弊所のシステム開発費は、私の3週間分の人件費のみですので、せいぜい数十万円ですので、極めて安価にシステム開発ができました。
うちのシステムでは、誰でも新しい雛形を作ることができます。その雛形は雛形一覧リストに追加され、リストから必要な雛形を選択するだけで、必要な書類を一瞬で正確に作成することができます。書類の書誌事項に間違いがあれば、それはケアレスミスではなく、データベースのデータの問題になります。ケアレスミスを減らすことは極めて困難ですが、データベースのデータの修正は簡単です。そして、データの修正後は、同じミスは決して起こりません。
このようなデータベース的思考で特許事務所の業務を考えれば、特許事務の業務量は大幅に軽減することができます。そして、コピペのような生産性の低い仕事から事務員を解放すれば、どうすればより分かりやすい報告書を作成することができるかといった顧客満足を高めるための工夫にリソースを割り当てることができるようになります。