【SKIPの知財教室(IP Hack ®)】じっくり®ヒストリー カプラン水車を発明した ヴィクトル・カプラン(1000オーストリア・シリング紙幣に肖像が使用された偉大な土木工学者)
2024.12.02
AKI
私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。水車は、紀元前2世紀ごろ、小アジアで発明されたと言われています。水の力をエネルギーに変えて石臼を回して製粉などをする仕組みは、それまでにない画期的なものでした。古代ローマ時代、水車は存在したものの、奴隷による労働力が豊富だった時代背景もあり、あまり普及しませんでした。中世、文明の中心は、中欧・西ヨーロッパへ。この時代、イギリスをはじめヨーロッパの各地域で産業革命がおき、さまざまな変革がなされました。そのうちのひとつが、カプラン水車の発明です。もともとは発電用として発明された水車ですが、水の落差を利用して電力を得る性質上、高低差の小さい場所では発電するのが難しいという欠点がありました。これを解決したのが、羽根の角度を調節することで低落差に対応できるプロペラ水車のひとつ、カプラン水車です。この水車を発明したのが、オーストリアの技術者ヴィクトル・カプランです。彼はその功績によって、1956年から1966年まで発行された1000オーストリア・シリング紙幣の肖像となりました。今回はそんなヴィクトル・カプランの生涯を振り返っていきましょう。
ヴィクトル・カプランの前半生(土木工学を学んでエンジニアとして活躍)
ヴィクトル・カプランは1876年、オーストリアのミュールツーシュラークで生まれました。鉄道員の家族がおり、土木工学が身近にある環境で育ちました。技術者としての知識やスキルを身につけたのは、こうした状況も影響していたのでしょう。1895年、ウィーンの高校を卒業したあと、ウィーン工科大学に入学。ここでは土木工学を学び、スキルを磨いていきました。大学では土木工学のほか、ディーゼルエンジンについての専門知識も習得。建築とエンジンの知識は、カプランがのちに大きな実績を残すための礎となりました。
1900年、カプランは徴兵により従軍。1年ほどクロアチアのプーラで兵役をつとめました。兵役を終えると、カプランは大学を卒業し、土木工学の専門家としてウィーンで活動しました。その後はチェコのブルノ工業大学で、土木工学研究会に入って研究活動を始めました。その後30年間をブルノで過ごしました。
ヴィクトル・カプランの後半生(大学教授になってカプラン水車を発明して特許を取得する)
1909年、カプランは正式に教授として就任することになります。学生に土木工学を教えながら、研究活動も続けていきました。カプランはそれまでに獲得した知識を活用して、画期的な水車のアイデアを実現しました。それが、彼の最大の発明である「カプラン水車」です。
カプラン水車は、角度を調節できるプロペラ状の羽根を備えたプロペラ水車です。羽根の角度を変えることで水の落差を生み出し、高低差の低い場所でも効率的に電力を生み出せる画期的な発明です。カプラン水車が登場する前は、ジェームズ・B・フランシスが発明したフランシス水車が主流でした。しかし、フランシス水車では高低差のない場所で発電することが難しかったのです。平地でも水があれば電気を作れるフランシス水車は、多くの人々の注目を集めました。
カプラン水車が登場した1912年から1913年にかけて、カプランは水車に関連する4つの特許を取得します。しかし、実際に商業的な成功を収めたのはここからおよそ10年後のことでした。発明当初、キャビテーションが発生してしまうという問題を解決する糸口が見つかっていなかったのです。
1919年、カプランはチェコのポジェブラディ市において、実演のためにカプラン水車を設置します。さらに1922年には、ドイツのフォイト社がおよそ約800kWのカプラン水車を採用。続いて1925年、スウェーデンのリッラ・エーデット市で8,000キロワットの水車の運用が開始され、カプラン水車はようやく日の目を見ることになったのです。その後、カプラン水車は広く採用されることになり、今でもさまざまな場所で運用されています。
商業的な成功を収めたのは1925以降のことですが、発表時点から彼の発明には栄誉が与えられました。1913年、カプランは水車研究会の会長に任命され、1926年には名誉博士号を授与されます。1934年にも名誉博士号を授与されますが、脳血管障害により、カプランはウンターアッハで亡くなりました。
今回は、カプラン水車を発明したヴィクトル・カプランの生涯を振り返りました。水車が発明されて以来、多くの人物が改良にかかわりました。試行錯誤の中、いかに効率よく電力を生み出すかは技術者たちの命題です。カプランは見事にそれまでの問題を解決できる水車を発明することに成功しました。58歳の若さで病死したことは惜しまれますが、彼の偉大な功績を讃えたいものですね。