【SKIPの知財教室(IP Hack ®)】じっくり®ヒストリー 水車を発明した マルクス・ウィトルウィウス・ポッリオ(世界で初めての建築理論書である『建築について』を出版したルネサンス時代の建築家)
2024.10.18
AKI
私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。建築の世界にも、長い歴史をかけて構築されてきた理論が存在します。骨組みの組み合わせや円形・流線型などの作り方を数学的に捉えることで、バランスをとりながら美しい建物を作り出すことができるようになったのです。建築にもさまざまな知識があり、書籍も数多く出版されています。そしてそんな建築理論書の中でも最初に登場したのが、ローマの建築家マルクス・ウィトルウィウス・ポッリオの『建築について』です。ウィトルウィウスは紀元前70年〜80年ごろに活動した建築家で、現代に至る建築技術の確立に貢献しました。今回はそんなマルクス・ウィトルウィウス・ポッリオの生涯を振り返っていきましょう。
マルクス・ウィトルウィウス・ポッリオの生涯(世界で初めての建築理論書である『建築について』を出版する)
マルクス・ウィトルウィウス・ポッリオに関する文献は、ほとんど残っていません。現時点でわかっているのは、彼が『建築について』の著者であることのみです。生まれた年や亡くなった年、家族構成などは不明です。
『建築について』は、世界で初めて建築理論について書かれた建築理論書です。その作成期間は、紀元前30年〜紀元前23年の間ではないかと言われています。この本に書かれている内容で、もっとも有名なものは「建築が成功するかどうかは、職人の技や形式ではなく、建築家の仕事が社会ともつ相関性に依存する」というものです。また「よい建築は、堅固さ、快適さ、美しさという3つの条件によって成り立つ」という考え方も知られています。
現在にまで『建築について』が伝わっているのは、カール大帝によるカロリング朝ルネサンスの興隆が大きな要因とされています。この時代、多くの書籍が制作されました。当時はまだ印刷技術がなかったため、本はすべて筆を使った手書きの筆耕本でした。何冊もの写本が作られ、現存する写本の中には当時作られたものもあります。ウィトルウィウスの理論ははじめ、古代ローマ文化を代表する建築・美術の観点で注目されていました。しかし古代ローマ文化は時代の中でだんだんと薄れていき、自然崇拝と多神教に代表されるケルト系文化へと移行していきます。中世が始まると、ルネサンス(再興)文化として古代ローマ文化が再び注目を浴びるようになり、ウィトルウィウスの理論も建築の基準として知られるようになっていきました。
ウィトルウィウスは『建築について』の中で、水車についての意見をしたためています。古代ギリシアにおいて、水車とは水平に流れる小川の流れを利用する動力機のことを指していました。ウィトルウィウスは滝のように落下する水の力を用いる形の水車を紹介し、より大きなエネルギーを得られる仕組みを提唱しました。この水車の形式は現代に至るまで受け継がれています。
マルクス・ウィトルウィウス・ポッリオがルネサンス時代に与えた影響(古代ローマの建築様式の復活に貢献する)
ウィトルウィウスが建築家であることを示していたのは、『建築について』の著者だったからです。アフリカ戦争の時にはガイウス・ユリウス・カエサルの下で働き、アウグストゥスに仕えていました。ウィトルウィウスが自作の本を出版したのは大きな名声を得るためでしたが、ローマ建築において確実に影響を与えたかどうかは定かではありません。とはいえ、当時の専門家の多くがウィトルウィウスの理論を重視しており、建築技術の基礎として見なされることも少なくなかったようです。建物をタイプやスタイル、材料、建設方法などで分類し、それぞれに適した建築方法で建設を行おうというのがウィトルウィウスの提唱した理論でした。この試みは 土木工学、構造工学、建築技術、建築デザインなどの多くの分野の創設に影響を与えました。スティーブン・エミットは「建築技術と設計の関係は、啓蒙主義と産業革命にさかのぼることができる。この時代は、技術と科学の進歩が進む道であり、進歩への確かな信頼の時代であった」とし、技術の進化と複雑化によって、建築業界が細分化したと主張しています。シンプルで応用の効きづらい建築に、さまざまな選択肢を生み出したのはウィトルウィウスの大きな功績です。
今回は建築の世界に大きな躍進を与えた建築家マルクス・ウィトルウィウス・ポッリオの生涯を振り返りました。紀元前80年ごろに生きたと考えられるウィトルウィウスについてわかっていることは数少ないですが、独自の建築理論を提唱した『建築について』の著者であることは間違いありません。現代においても、建築は暮らしに欠かせない技術です。安全な住宅で暮らせるのは、これまでに培われた建築技術あってのことです。『建築について』は、そうした建築技術の祖先ともいえます。紀元前というはるか昔から存在し、現代まで残り続けた建築理論があることは非常に感慨深いものですね。