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【SKIPの知財教室(IP Hack ®)】じっくり®ヒストリー ダイプレイドスコープを発明した ジョバンニ・バッティスタ・アミーチ(太陽の正中を測定する精度の高いダイプレイドスコープを発明して船乗りを支えた天文学者)

IP HACK

2024.09.20

AKI

私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。ダイプレイドスコープは、真正午を決定するために使用される機器です。誰が使っても簡単に10秒以下の誤差で真正午を決められるため、航海中の船が現在地を割り出すために活用されました。ダイプレイドスコープを発明したのが、イタリアの天文学者ジョバンニ・バッティスタ・アミーチです。彼の名前にちなんで、小惑星帯にある小惑星のひとつに「アミーチ」という名がつけられました。今回はそんなジョバンニ・バッティスタ・アミーチの生涯を振り返っていきましょう。

ジョバンニ・バッティスタ・アミーチの前半生(太陽の正中を測定する精度の高いダイプレイドスコープを発明する)

ジョバンニ・バッティスタ・アミーチは1786年、モデナで生まれました。ボローニャの大学で学んだ後、教授となったアミーチはモデナに戻り若者たちに数学を教えました。自らは生物学の研究のために顕微鏡を製作し、光学機器に関する成果を発表しました。1831年にフィレンツェに招かれると、天文台の所長と自然科学の教授に就任します。アミーチは丈夫かつ性能の高い望遠鏡を作り出しました。フィレンツェのアルチェトリ天文台にある望遠鏡は、当時世界で2番目の大きさを誇ります。

アミーチはまた、太陽の正中を測定する精度の高いダイプレイドスコープを発明したことでも知られています。名前はギリシャ語でダブル・イメージ・ビューアを意味する言葉に由来しています。小さな望遠鏡と太陽の二重像を作り出すプリズムで構成されており、太陽が最も高くなった瞬間だけ二つの太陽の象が重なる構造をしています。太陽が重なった瞬間が、その場所での正午となります。この道具を使えば、天体に詳しくなくとも簡単に10秒以下の誤差で真正午を決定することができます。

ダイプレイドスコープ は、時計を合わせることの他に、航海中に船がいまいる場所の正午を観測してマリンクロノメーターが示すグリニッジ標準時と比較して時差を求めることで、簡単に現在の経度を求めることができます。 太陽のみならず、月に対しても使用することができ、日没後でも現在地を把握できるのです。

ジョバンニ・バッティスタ・アミーチの後半生(エドワード・ジョン・デントと組んでダイプレイドスコープを実用化する)

ダイプレイドスコープの原型は19世紀の前半に発明され、ロンドンでマリンクロノメーターの職人をしていたエドワード・ジョン・デントが実用品を量産販売しました。デントは1830年代、太陽の簡単な観測によって一般人でも時計を正しく設定できるようにする装置の開発に取り組んでいました。1840年までに、デントはプリズムの象を使った最適な仕組みを思いつきましたが、そのアイデアはすでにアミーチがダイプレイドスコープに実装していました。アミーチとデントはパートナーシップを結び、2年間の研究の末に特許を取得します。その後はデントが主導となり、デントの双極子鏡として製造・販売しました。 機器は太陽だけでなく月も使用でき、正しく調整された場合、誤差は1秒未満にもなるとも言われていました。この装置は、1851年の万国博覧会で展示されました。デントの没後は、彼の息子のフレデリック・ウィリアム・デントが製造を引き継ぎました。

真正午を計測する装置は、鉄道開発が進んだ時代に活躍しました。運行ダイヤがある関係上、時計を統一する必要があったからです。それまでは正午時計などから現地時間を計測し、各地域の範囲内で時計を合わせるだけで十分でしたが、鉄道が登場してからは現地時間からグリニッジ標準時に合わせる必要があったのです。このスコープはのちに改良され、経度を設定することでその場所ではなく標準時間での真正午を観測できるようになりました。地球のどの場所にいても現在の緯度と時間を割り出せるスコープの発明で後世に名を残したアミーチは、1863年にフィレンツェで亡くなりました。

今回は、ダイプレイドスコープを発明したジョバンニ・バッティスタ・アミーチの生涯を振り返りました。航海に出た船は、地図上での自分の位置を知っておかなくてはなりません。船乗りにとっての生命線ともいえる緯度の計測をより簡潔に、しかも精度を高く行えるこのスコープの発明は、大海原で遭難するリスクを大幅に下げました。船のみならず、鉄道の興隆にも一役買ったダイプレイドスコープの発明は、間違いなく歴史を支えたものだといえるでしょう。あまり知られていない発明品の歴史をたどってみるのも、また違った面白さがありますね。

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