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冒認出願であるとの無効の主張に対しては特許権者が冒認出願でないことの立証責任を負うことを判示した判決

2010.12.07

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冒認出願であるとの無効の主張に対しては特許権者が冒認出願でないことの立証責任を負うことを判示した判決です。
自分の発明を勝手に出願されてくやしいという相談をときどき受けることがあります。冒認出願は無効理由ですが、冒認出願の立証は容易ではありません。この判決に従えば、冒認出願を理由とする無効審判請求の負担がかなり軽減されます。
H18. 1.19 知財高裁 平成17(行ケ)10193 特許権 行政訴訟事件


1 冒認出願を理由とする無効審判における主張立証責任の分配について (1) 特許法は,29条1項に「発明をした者は,‥‥‥特許を受けることができる。」と規定し,33条1項に「特許を受ける権利は,移転することができる。」と規定し,34条1項に「特許出願前における特許を受ける権利の承継は,その承継人が特許出願をしなければ,第三者に対抗することができない。」と規定していることからも明らかなように,特許権を取得し得る者を発明者及びその承継人に限定している。このような,いわゆる「発明者主義」を採用する特許制度の下においては,特許出願に当たって,出願人は,この要件を満たしていることを,自ら主張立証する責めを負うものである。このことは,特許法36条1項2号において,願書の記載事項として「発明者の氏名及び住所又は居所」が掲げられ,特許法施行規則5条2項において,出願人は,特許庁からの求めに応じて譲渡証書等の承継を証明するための書面を提出しなければならないとされていることからも明らかである。
特許法123条1項は特許無効審判を請求できる場合を列挙しており,同項6号は,「その特許が発明者でない者であつてその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたとき。」と規定するものであるが,特許法が上記のように「発明者主義」を採用していることに照らせば,同号を理由として請求された特許無効審判においても,出願人ないしその承継者である特許権者は,特許出願が当該特許に係る発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたことについての主張立証責任を負担するものと解するのが相当である。
(2) この点につき,原告は,特許法123条1項6号を理由とする特許無効審判においては,審判請求人が,「その特許が発明者でない者であってその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたこと」の主張立証責任を負い,請求人は,そのことを具体的に主張立証しなければならない旨を主張する。たしかに,特許法123条1項6号は,「その特許が発明者でない者であつてその発明について特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたとき」に,特許無効審判を請求することができると規定しているものであって,当該規定の文言をみる限り,審判請求人において当該事由の主張立証責任を負担するようにも見えるが,特許法123条1項各号をもって各無効事由について主張立証責任の分配を定めた規定と解することはできず,無効審判における主張立証責任は,特許無効を来すものとされている各事由の内容に応じて,それぞれ判断されなければならない。すなわち,当該特許が特許法29条1項の規定に違反してされたという無効事由(特許法123条1項2号)を例にとれば,特許法29条1項の規定に照らし,同項柱書の発明の完成を含めた産業利用可能性につき特許権者が主張立証責任を負担し,同項各号の該当性,すなわち公知,公用,文献公知につき無効審判請求人が主張立証責任を負担することとなる。また,当該特許が特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたという無効事由(特許法123条1項4号)については,特許法36条4項1号の規定に照らせば,願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の記載が当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであることを特許権者において主張立証しなければならない。そして,特許法123条1項6号の規定する無効事由については,上記(1)に判示した理由により,特許出願が当該特許に係る発明の発明者自身又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたことを,特許権者において主張立証しなければならないものというべきである。

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