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地裁で認められたProsecution Laches and Inequitable ConductがCAFCでひっくり返された事案(Cancer Research Technology v. Barr Laboratories: Prosecution Laches and Inequitable Conduct)

2010.11.12

伊藤 寛之


Cancer Research Technology v. Barr Laboratories: Prosecution Laches and Inequitable Conduct

このケースでは、Prosecution LachesとInequitable Conductが争われました。
1.Prosecution Laches
Prosecution Lachesというのは、特許の成立を故意に遅らせるような卑怯なことをした権利者には特許権の行使を認めないという理論です。有名なのは、サブマリン特許で有名なレメルソンのケースです。米国法は、1994年の改正までの出願については、特許権の存続期間が「登録から17年」でした。
例えば、1950年に出願されたものでも継続出願を繰り返すと、1990年くらいに特許を成立させることができます。米国には当時は出願公開制度がないので、特許になるまでは誰もその特許の存在を知り得ません(2000年に出願公開制度が導入されましたが、国内出願のみの出願については出願公開を拒否できるので、現在でも出願公開は限定的です)。この40年間のうちに技術が進歩して1950年に出願された技術を誰もが使うようになったところで、突然特許が成立すると誰もが驚きます。工場を止めるわけには行かないので、巨額の賠償金を払うことになります。
このようなシナリオを実現したのがレメルソンで、和解金により巨額の富を得ました。しかし、このような方法はちょっと卑怯かなぁという感じもあります。そこで、2004年の判決では、レメルソン特許に対して、Prosecution Lachesの法理が適用されて権利行使が妨げられました。
今回のケースでは、審査官による審査を受けるのに10年程度かかっていることが問題とされ、それを理由に地裁はProsecution Lachesを認定しました。一方、CAFCは、Prosecution Lachesの認定には、時間のみの要素ではなく、その遅れのために被疑侵害者が損失(prejudice)を被ったことを示すことが必要であると判示しました。そして、この損失が示せてしないので、Prosecution Lachesは認められないと判断しました。

2.Inequitable Conduct

Inequitable Conduct(不公正行為)の一例がIDS違反です。特許庁に提出すべき重要な情報を提出しなかった場合に、権利行使が制限されるという法理です。Inequitable Conductの成立には、materialityとintent to deceiveの2つの要件を満たす必要があります。
materialityとは、情報の重要性であり、特許性の判断に与える影響の大きさです。
intent to deceiveとは、USPTOを騙す意図のことです。
これらの何れか一方でもInequitable Conductは、成立せず、両方が存在することが必要です。
従って、「重要な文献をうっかり提出し忘れた」場合は、理論的には、Inequitable Conductは成立しません。intent to deceiveが存在しないからです。ただ、立証の問題は別ですので、intent to deceiveがあったと推認されてしまう可能性があるので、注意が必要です。
今回のケースでは、出願後に出願した化合物についてのデータを多数論文発表したが、その論文を特許庁に提出しなかったことが問題とされました。その論文にはnegativeデータも含まれていて、materialityが認定されました。
地裁は、materialityが高いので、intent to deceiveも推認されると判断しました。
一方、CAFCは、materialityが高くても、intent to deceiveは推認されないと判断しました。その理由として、もしかしたら、発明者は、その論文のmaterialityが高いことを認識していなかったのかも知れないことを挙げました。

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