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比較例を実施例に変更する補正が新規事項であると判断された事件

2010.12.24

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平成 17年 (行ケ) 10607号 特許取消決定取消請求事件
当初明細書において比較例としていたものを実施例とすることは、新規事項の追加に該当すると判断された事件です。この判決によれば、新規事項の追加に該当するかどうかは、単純に、明細書に記載があるかどうかだけでは判断されるのではなく、明細書内でのその記載の意義を考慮して判断されます。
この判決では、比較例を実施例にすることが問題とされましたが、従来技術の記載を本発明の記載にすることについても同様の問題が生じると思われます。従来技術の記載は、できるだけ少なくした方がいいことを示唆しています。


(5) 以上のとおり,「電解液番号7a,8a」の場合の具体例は,当初明細書の前記記載からみれば,当初明細書の【表2】の記載のとおりに「比較例」を意味すると解するのが自然である。したがって,補正1によって,「電解液番号7a,8a」の場合という新たな「実施例」を追加することとなるから,この補正が新規事項の追加であると判断した決定に誤りはない。
4 負極材料の限定の有無について原告は,当初明細書には,負極材料から「黒鉛などの炭素質材料」を排除する記載がないと主張する。
しかし,前記のとおり,当初明細書の負極材料に関する記載及び【表2】の記載を全体としてみれば,「負極材料として黒鉛を用いた場合」は,当初発明よりも劣る結果が出る「比較例」と解するのが自然であるのに対し,当初明細書には,当初発明で対象となる電池として「黒鉛などの炭素質材料」を負極材料とする場合も含むものと解することができるだけの根拠が見当たらないのであり,特許請求の範囲の記載が「負極」の材料を限定していないとしても,負極材料が黒鉛の場合は「比較例」であって,「実施例」ではないとの前記3の結論を左右するものではないから,原告の主張は失当である。
5 第三者の不利益について原告は,第三者が被告主張のような誤解をすることはあり得ないから,不利益を被ることはない旨主張する。
しかし,原告の主張は,その主張する前記3(3)の誤記が当業者に明白であることを前提とするものであり,この前提が認められないことは前記のとおりであるから,この主張を採用することはできない。当初明細書において当初発明に属しない具体例(比較例)とされていたものが,当初発明に属する具体例(実施例)とされたならば,第三者が不測の不利益を被ることは明らかである。

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