特許のクレームや明細書では、要素の集合のうちの一つをさして「一方の~」、それとは別の要素をさして「他方の~」という表現が用いられることがよくあります。例えば、「一対の側面部のうちの一方と他方」といった感じです。この記事では、このような「一方」「他方」の英訳のバリエーションについて簡単に説明します。
二者択一の場合
まず、二者択一の場合、つまり、二つあるもののうちの「一方」と「他方」の英訳についてみていきます。例えば、”A pair of ends”(一対の端部)という要素があった場合、以下のような訳が可能です。
・”One”と“The other”
「一方」は“one of the ends”、「他方」は“the other one of the ends”などと訳します。そして、これら「一方の端部」と「他方の端部」に「前記」をつけて参照する場合は、「前記一方の端部」は“the one of the ends”または“the one end”、「前記他方の端部」はそのまま“the other one of the ends”または“the other end”などと訳します。
ここで、「前記一方の端部」を“the one of the ends”と訳すとtheがぎこちなく見えるかもしれませんが、特許翻訳では“the at least one of …”(前記少なくとも一つの...)が普通に用いられることを考えると、それほど変わった訳出ではないと言えます。
・”First”と”Second”
次に、“One”と“The other”の代わりに、”First”と“Second”を使うことも可能です。上の例でいうと、「一方」は“a first of the ends”、「他方」は“a second of the ends”などと訳します。そして、「前記」を付けて参照するときは、単純に”the first end”や“the second end”などと訳せばOKです。
三つ以上の選択肢がある場合
要素が3つ以上ある場合は、二者択一の場合と違って、3つ目以降の要素の存在を考慮した訳にする必要があります。例えば、“at least two connectors”(少なくとも二つのコネクタ)のうちの「一方」と「他方」の訳には、以下のような訳が考えられます。
・”One”と“Another”
「一方」は、二者択一の場合と同じで、“one of the at least two connectors”ですが、「他方」は、“another one of the at least two connectors”などと訳します。これにより、コネクタが3つ以上の場合でも、「一方」として一つ選んで余った二つ以上のコネクタうちのどれか一つが「他方」、といった解釈になります。これらに「前記」を付けて参照する場合は、”the one connector”、“the another connector”という感じで、単純にtheを付けて訳してOKです。通常の英語ではanotherにtheを付けることはないですが、特許英語では明確性のためしばしば使用されます。
・”First”と”Second”
二者択一の場合と同じで、”First”と”Second”を使うこともできます。例えば上のコネクタの例だと、「一方」と「他方」は、それぞれ、“a first of the at least two connectors”と“a second of the at least two connectors”のように訳せます。二者択一の場合と同じ使い方なので、要素が二つか三つ以上かを気にする必要が無く、便利な訳だと言えます。また、「前記」を付けて参照するときも、単純に“the first connector”や“the second connector”とできるので、“the one”や“the another”よりも自然な英語になります。
場合によっては、初めから“at least two connector”とせずに“at least a first connector and a second connector”などと訳してもよく、そのほうがすっきりとした訳になる場合もあると思います。
以上、「一方」と「他方」の特許翻訳について簡単にまとめました。翻訳の際に何かの助けになれば幸いです。
参考文献:倉増一、特許翻訳の基礎と応用―高品質の英文明細書にするために―、講談社、2006年