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進歩性の主張は3点を押さえる(動機なし、阻害要因あり、予測不能な効果あり)

2014.09.11

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進歩性欠如というのは、拒絶理由の中でも最も一般的なものですが、その種類は、次に2種類しかありません。
A:2つの以上の文献の組み合わせによって本発明の構成が得られる。
B:文献に開示されていない事項は、設計事項にすぎない。
どちらの場合でも、主張できる内容は、次の3つしかありません。
①動機なし
 文献を組み合わせる(又は設計変更を行う)動機がない、という反論です。どのような事実が存在すれば「動機がある」といえるのかは非常にばらつくところです。審査のばらつきの原因の多くは、動機をどのように認定するのかにかかっています。
 審査基準では、動機づけとなりうるものとして、以下の4つを挙げています。
(1)技術分野の関連性、(2)課題の共通性、(3)作用、機能の共通性、(4)引用発明の内容中の示唆
このうち(2)~(4)は、技術として共通点があり、組み合わせる動機があると認定されても止むを得ないものです。最も典型的なのが課題の共通性であり、文献Aで耐熱性が劣っていることが示されており、文献Bに耐熱性を改善するための方法が開示されていれば、それを組み合わせてみようとすることは当然のことです。
最も問題になるのは、「技術分野の関連性」です。(2)~(4)のような事情がなく、単に、文献を寄せ集めると本発明の全ての構成が集まるというだけです。非常に多くの発明では、構成要素をばらばらにしてしまえば、それぞれの構成要素は、どこかの文献に開示されています。このため、単に、「技術分野の関連性」という理由で組み合わせを認めてしまうと、なんでもかんでも進歩性なしになってしまい、特許取得が極めて難しくなってしまいます。
 日本では、2009年以前は、このような基準で審査がなされていましたので、従来技術との差が非常に大きくなければ、特許にはなりませんでした。それがここ数年は、知財高裁が、「技術分野の関連性」だけで動機を認定することに否定的になりました。その結果、特許査定率が、50%→70%程度にまで劇的に上昇しました。このように、どのような事実が存在すれば、「動機あり」とみなすことができるのか、特許制度の根幹になっています。
現在は、世界中の特許制度は、法律上は似たり寄ったりになってきています。感覚的に現状で審査が最も厳しいのは、中国であるように感じています。審査のばらつきが極めて大きいので、「厳しい人もいる」という方が正確かもしれません。
中国の審査官の中には、動機がなくても、技術分野の関連性が薄くても、複数の文献の組み合わせが容易であると言い切ってきたり、何の根拠もなく、設計事項であると言ってきたりします。これに対しては、組み合わせる動機がない、とか、そのような設計変更をする動機がない、とかを引用文献中の具体的事実を指摘して反論しますが、聞く耳をもってもらえないことも多いです。
②阻害要因がある
動機と阻害要因の関係は、地点Aから地点Bに向かって車で移動する際の、車のエンジンの大きさと、途中にある障害物でイメージすると分かりやすいと思います。地点Aから地点Bに到達可能であれば進歩性がないことになります。
エンジン(動機)がなければ、そもそも車が動かないので、阻害要因を検討するまでもなく、進歩性があることになります。
エンジン(動機)があるが、その馬力があまり強くなくて、障害物(阻害要因)を乗り越えられない場合は、地点Bに到達できないので、進歩性があることになります。
一方、エンジン(動機)の馬力が大きくて、障害物(阻害要因)があっても乗り越えてしまう場合には、進歩性がないことになります。
従って、動機と阻害要因は、バランスで考える必要があります。動機が強ければ少々の阻害要因は乗り越えられるが、動機が弱ければ阻害要因が強くなくても、地点Bには到達できないからです。意見書では、多くの場合、「・・・の理由により、動機がなく且つ阻害要因が存在するので、組み合わせが容易ではない」と主張します。
動機や阻害要因の有無について検討するときは、まず、本発明を忘れます。そして、引用文献のみを頭に入れで、本発明の出願前の時代の人になった気分で、引用文献の内容を組み合わせようとしてみます。そして、「何故、組み合わせようと思ったのか?」を自問します。その問いに答えられないとすれば、本質的に動機が存在していないことになります。後は、答えられない理由を意見書に分かりやすく記載するだけです。審査官は、時間に追われている中で、本願明細書を見た上で、引用文献を探しますので、どうしても後知恵で「動機」を認定してしまいます。本発明の内容を見ると、その組み合わせが容易である気がするのは仕方がないことです。従って、「動機がある」という反論に対しては、本発明を忘れた状態で引用文献の内容を検討することが極めて有効になります。
阻害要因についても同じです。本発明を忘れた状態で、引用文献を組み合わせようとしてみたときの違和感を感じるようにします。別々の文献が、すんなりと組み合わされることはむしろ稀です。何らかの違和感を感じますので、それを文章にします。特に意識するのは、各文献の「方向」です。特許文献は、何らかの明確な目的(課題の解決)のために、特定の手段を採用したことを述べているものですので、明確な方向付けがなされています。その目的に反したり、せっかく採用した手段を無くしたりすることは普通はやらないので、阻害要因になります。
③予測不能な効果あり
 この主張は、通常、化学・バイオ系では極めて重要です。実施例で優れた効果が示されていれば、その効果が「予測不能」であるとすれば、すんなりと特許されることが多いです。一方、電気・機械系では、ほとんどの効果は構成から予測可能ですので、「予測不能な効果」が認められて権利化されることは稀です。
 予測不能な効果は、明細書に記載されている実施例・比較例に基づいて主張するのが原則ですが、意見書や実験成績証明書中で「参考実施例・参考比較例」を提出すれば、法律的な効果はともかくとして、審査官の心証に与える影響が大きく、特許になる可能性が高まります。
以上のように、整理して考えると、進歩性欠如の拒絶理由に対する反論は、非常にシンプルです。そして、最後の結びの言葉は、多くの場合、「以上のように、引用文献の組み合わせ(又は設計変更)には動機がなく且つ阻害要因が存在する。さらに、本発明は、引用文献からは予測できない顕著又は異質な効果を有するものです。以上より、本発明は、引用文献に対して進歩性を有する。」のようになります。

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