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エアロゾル事件での作用効果不発生の抗弁について述べた箇所は傍論に過ぎない

2010.11.29

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「発明の効果に記載した効果を被疑侵害品が奏しない場合には、その被疑侵害品がクレームの全ての構成要件を充足していたとしても、その被疑侵害品は、クレームの技術的範囲に含まれない」という主張は、作用効果不発生の抗弁などと称され、発明の効果を書きすぎると、不利に働くことがあるという主張の根拠になっています。
この作用効果不発生の抗弁と関連する判決として必ず引用されるのが、以下に示すエアロゾル事件です。
この事件では、以下に示すとおり、確かに、作用効果不発生の抗弁を認めています。しかし、結論としては、被疑侵害品は、作用効果を奏するから、技術的範囲に含まれる、としています。
つまり、この判決での作用効果不発生の抗弁はただの傍論にすぎないので、あまりこの判決を
作用効果不発生の抗弁の根拠にするのはあまり適切ではないと思います。
もっとも、効果を書きすぎると、クレームの限定解釈の根拠になったりするので、クレームの構成から必然的に奏される効果以外は記載しない方がいいということには変わりがありません。
◆エアロゾル事件 平成12年(ワ)第7221号 特許権侵害差止請求事件
★作用効果不発生の抗弁は、法律論としては認められたが作用効果が奏さないことは
ないとして被告が敗訴した。
 前記のとおり、特許発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づ
いて定めなければならないものであるから、たとえ対象物件が特許発明と同様の作
用効果を奏するとしても、その構成が特許請求の範囲の記載と異なれば、特許発明
の技術的範囲に属するとすることはできず、その意味では、作用効果に基づいて特
許発明の技術的範囲を定めてはならない。しかし、特許請求の範囲の記載の技術的
意義を解釈するに当たって作用効果を参酌することはもとより、対象物件が特許請
求の範囲に記載された構成と同じであっても当該特許発明の作用効果を奏しない場
合に対象物件が特許発明の技術的範囲に属しないとすることも、特許請求の範囲を
その文言上の意味するところから作用効果を奏する範囲に限定して解釈するものに
ほかならないから、特許法70条1項の規定に反するものではない。なお、対象物
件が特許請求の範囲に記載された構成要件を充足しながら、なおかつ特許発明の作
用効果を奏しないためにその技術的範囲に属しないとされる場合には、対象物件が
特許発明の作用効果を奏しないことの立証責任は、前記のとおり、特許発明におい
ては新規な構成と作用効果に関連性があり、新規な構成があるものとして特許され
た発明と同一の構成を対象物件が備える以上、同一の作用効果を奏するものと推定
されるというべきであるから、これを争う特許権侵害訴訟の被告にあるものと解す
るのが相当である。
エ 以上によれば、被告製剤は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載され
た作用効果がないとはいえないから、被告製剤が本件発明の作用効果を奏しないこ
とを理由に本件発明の技術的範囲に属しないとすることはできない。

作用効果の記載が関係した別の判決です。

◆塩酸ニカルジピン事件 平成14年(ネ)第1567号 損害賠償請求控訴事件
★作用効果が奏しない程度に微量な含有量のものは、技術的範囲から除かれるとされた。
 当裁判所も,製剤中の無定形塩酸ニカルジピンの含有量が極微量で本件発明
の作用効果を生じないことが明らかであるような場合を除いて,当該製剤は本件発
明の技術的範囲に含まれ,無定形塩酸ニカルジピンの含有量や生成方法の観点から
の限定を受けることはないものと判断する。
◆血液採取器事件 平成12年(ネ)第3624号 特許権侵害差止等請求控訴事件
★明細書中の作用効果の記載を参酌してクレームが限定解釈され、その結果、被告製品が
非侵害であるとされた。
エ 以上検討したところによれば、本件フィルターは、被告CMC-Naの膨潤(体積
増加)によって血液の流れを止めているものではなく、控訴人が主張するとおり、被告C
MC-Naの溶解により粘性を増加した血液の細孔内における流速低下を利用して、必
要な時間、フィルター内に流入した血液が外に流出することを止めているものと推認す
ることができる。
 したがって、本件フィルターは、膨潤により気密を実現する(「膨潤時には気密性を有
する」)という本件発明の要件を充足しない。
 4 「水膨潤性高分子」について
 なお、被告CMC-Naは、以上に認定したとおり、「膨潤によって気密性を実現し得る」
という意味における「膨潤」をするものではないと認められるから、「水膨潤性高分子」を
水溶性高分子を含む意味に解するか否かにかかわりなく、本件発明にいう「水膨潤性
高分子」ではないというべきである。 

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