新規性喪失例外の適用(30条)を受ける際の注意点(特許を受ける権利を有する者による発表)
2010.07.28
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大学などの研究者にとっては、特許出願よりも学会発表や論文発表の方が重要度が高いので、発表した後に新規性喪失の例外の適用を受けて出願する例が多くあります。
新規性喪失例外の適用を受けるための要件は、特許法30条に厳格に定められていて、特許庁が定めた学会での発表だとか電気通信回線なんとかだとか無意味に厳しい要件が課されています。
国内学会での発表は救済されるのにボストンでの国際学会での発表は救済されないとか、You Tubeで公知になったものは救済されるのにテレビ放映で公知になったものは救済されないなどという摩訶不思議な要件になっていますが、現行法はそうなっているのでそれに従う他はありません。日本でも意匠の場合は、発表理由を問わずに例外適用を受けられますし、米国のグレースピリオドは理由を問わずに1年間の猶予期間があります。
以前に、友人から「伊藤さん、この間、俺の発明品がテレビで紹介されて結構反響あったから特許出願しようと思うんだけど、相談にのってくれる?」と言われました。一般の人の感覚は、こんな感じですよね。反響があるかどうか分からないものに対して数十万円もかけて特許出願できないでしょうから。また、自分の発明を発表した瞬間に特許が取れなくなるなんて意味分からん。。って感覚は自然だと思います。その点、アメリカの特許法はよくできていると思います。
さて、30条の適用を受けるには、
実体的には(1)発表から6ヶ月以内であること、(2)論文発表等であること、(3)特許を受ける権利を有する者による発表であることが必要です。
手続き的には、(1)願書に30条の適用を受ける旨を記載すること、(2)30日以内に証明書を提出することが必要です。
願書に記載を忘れたり、30日よりも一日でも遅れるとジ・エンドです。救済措置はありません。証明書提出期限は無意味短いです。3ヶ月にしたって誰も損しないはずです。誰も特許出願の存在を知り得ないし、審査が開始されるのは数年後です。
さて、本題ですが、例外適用の証明書を作成する際の注意点の一つは、「特許を受ける権利を有する者による発表であること」という要件を満たすように作成することです。譲渡証の作成時期と、発明者と実際の発表者との関係で書面の作成方法が変わるからです。証明書の作成方法は、ここで詳細に説明されています。
1.譲渡証について
譲渡証が作成される前は、「特許を受ける権利を有する者」は発明者です。
譲渡証が作成された後は、「特許を受ける権利を有する者」は会社です。
証明書には、「特許を受ける権利を有する者と公開者との関係について 」を記載する必要があります。
発表→譲渡証作成の場合
この場合、発明者が「特許を受ける権利を有する者」ですので、単純に以下にように記載すればOKです。
特許を受ける権利を有する者である特許一郎自ら、「高脂血症にかかわる制御遺伝子を発見」について、公開の事実に記載のとおり公開を行った。
譲渡証作成→発表の場合
この場合、発表時点での「特許を受ける権利を有する者」は会社ですので、発明者による発表は、「特許を受ける権利を有する者」による発表に該当しませんので、30条の要件を満たさないことになります。そこで、発明者には会社の手足として動いてもらうことになります。以下のように記載します。
国立大学法人特許大学は、特許太郎及び特許一郎に対して「平成18年 電気・通信学会 全国大会」にて発明を公開するよう依頼し、当該依頼に基づいて平成18年3月2日に、特許太郎及び特許一郎は「高効率低圧電流直流電源の開発」について公開の事実に記載のとおり公開を行った。
2.発明者と実際の発表者との関係
AさんとBさんが共同発明者とします。特許を受ける権利は二人の共有であり、「特許を受ける権利を有する者」は二人が合体した人です。Aさん単独、Bさん単独、AさんとBさんとCさんの集合体は、どれも30条の「特許を受ける権利を有する者」ではありません。
そこで、AさんとBさんが二人で仲良く発表した場合以外は、証明書の作成方法に工夫が必要になります。
Aさん単独で発表した場合
学会発表は一人で行うことも多いと思います。その場合は、以下のように記載します。
特許一郎は、公開時の特許を受ける権利を有する者である特許一郎及び実用次郎を代表して公開を行った。
発表者にCさんが含まれていた場合
論文には発明者以外にも多くの人が名前を連ねる場合があります。その場合は、以下のように記載します。
特許を受ける権利を有する者である特許太郎及び経済花子自ら、「二重構造を有する記録媒体の記憶容量に関する研究」について、公開の事実に記載のとおり公開を行った。
また、知財次郎は、当該公開された発明については特許を受ける権利を有する者ではなく、単に実験補助者の立場で公開者の中に名を連ねただけである。
30条の手続きは、今でも複雑ですが、これでも以前に比べるとかなりシンプルになりました。以前は、英語で論文発表された場合はその日本語訳が要求されたりしました。30条が適用されるとその論文が引例から除外されるのでその日本語訳は決して読まれることがないにも関わらずなぜか要求されました。現在は、書誌的事項の翻訳のみでOKになりました。
(発明の新規性の喪失の例外)
第30条 特許を受ける権利を有する者が試験を行い、刊行物に発表し、電気通信回線を通じて発表し、又は特許庁長官が指定する学術団体が開催する研究集会において文書をもつて発表することにより、第29条第1項各号の一に該当するに至つた発明は、その該当するに至つた日から6月以内にその者がした特許出願に係る発明についての同条第1項及び第2項の規定の適用については、同条第1項各号の一に該当するに至らなかつたものとみなす。
2 特許を受ける権利を有する者の意に反して第29条第1項各号の一に該当するに至つた発明も、その該当するに至つた日から6月以内にその者がした特許出願に係る発明についての同条第1項及び第2項の規定の適用については、前項と同様とする。
3 特許を受ける権利を有する者が政府若しくは地方公共団体(以下「政府等」という。)が開設する博覧会若しくは政府等以外の者が開設する博覧会であつて特許庁長官が指定するものに、パリ条約の同盟国若しくは世界貿易機関の加盟国の領域内でその政府等若しくはその許可を受けた者が開設する国際的な博覧会に、又はパリ条約の同盟国若しくは世界貿易機関の加盟国のいずれにも該当しない国の領域内でその政府等若しくはその許可を受けた者が開設する国際的な博覧会であつて特許庁長官が指定するものに出品することにより、第29条第1項各号の一に該当するに至つた発明も、その該当するに至つた日から6月以内にその者がした特許出願に係る発明についての同条第1項及び第2項の規定の適用については、第1項と同様とする。
4 第1項又は前項の規定の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を特許出願と同時に特許庁長官に提出し、かつ、第29条第1項各号の一に該当するに至つた発明が第1項又は前項に規定する発明であることを証明する書面を特許出願の日から30日以内に特許庁長官に提出しなければならない。