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包括委任状は優先権証明書請求には使えない→対処方法

2010.07.30

伊藤 寛之

包括委任状は、クライアントの全ての案件について代理権限を与える極めて強力なものです。
このような強力なものですので、これがあれば、別に個別委任状をもらわなくても、全ての手続きができると思ってしまいがちです。しかし、包括委任状は、優先権証明書の請求には利用することができません。
特許法施行規則 (包括委任状)
第九条の三  手続(特許法第百八十六条第一項 の規定による証明等の請求及び工業所有権に関する手続等の特例に関する法律施行規則 (平成二年通商産業省令第四十一号。以下「特例法施行規則」という。)第六条第一項 に掲げるものを除く。)をする際の第四条の三の規定による証明については、特例法施行規則第六条第一項 の規定によりあらかじめ特許庁長官に提出した事件を特定しない代理権を証明する書面(以下「包括委任状」という。)を援用してすることができる。


特許法 (証明等の請求)
第百八十六条  何人も、特許庁長官に対し、特許に関し、証明、書類の謄本若しくは抄本の交付、書類の閲覧若しくは謄写又は特許原簿のうち磁気テープをもつて調製した部分に記録されている事項を記載した書類の交付(第三項において「証明等」という。)を請求することができる。ただし、次に掲げる書類については、特許庁長官が秘密を保持する必要があると認めるときは、この限りでない。

従って、対象となる国内出願の代理人になっていない場合、包括委任状を持っていても、優先権証明書請求ができないことになります。
問題となるのは、外国出願やPCT出願時に、代理人を変更するケースです。弊所では、別の事務所で国内出願に基づく外国出願の依頼を多く受けています。
このようなケースで、優先権証明書請求を行うには、以下の2つの方法があります。
1.個別委任状を添付して請求
 包括委任状の援用はできませんが、個別委任状があれば、優先権証明書請求が可能です。ただ、包括委任状を貰っているのに、個別委任状をもらうというのは、事務所もクライアントも面倒です。
2.基礎出願の代理人になって請求
 基礎出願の代理人であれば、委任状なく、優先権証明書の請求ができます。従って、包括委任状を援用して代理人選任届を提出した後に、優先権証明書請求を行えばOKです。
 但し、この手続にも問題があって、特許庁の内部処理の問題で、証明書請求から発行までの間は、代理人でいることが必要である、そうです。発行までは2週間~1ヶ月程度かかり、その間の特許庁からの書類が、最後に選任された代理人のところに来るので、特許庁からの書類の送付先が混乱してしまうという問題があります。
 この問題を解決するのは、代理人選任届において、【その他】の欄を設け「筆頭代理人にならないことを宣言する。」と記入することです。このように記載すれば、筆頭代理人にならないので、書類の送付先が混乱しないことになります。そして、優先権証明書請求を行ない、十分に時間が経過した後に、代理人辞任届を提出すれば、OKです。
PCTでは、優先権証明書の電子的交換の制度ができましたが、この制度を利用するには、アクセスコードの請求が必要で、アクセスコードの請求には包括委任状の援用が認められませんので、電子的交換制度を利用しても、やはり、優先権証明書を取得するには、上記のようなややこしい手続きが必要です。

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