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【SKIPの知財教室(IP Hack ®)】じっくりヒストリー ペニー・ファージング型自転車の発明家 ジェームズ・スターレー(自転車産業の父と呼ばれる偉大な発明家)

2023.06.02

AKI

私たちの身の回りには非常に多くの画期的なモノや手法であふれています。これらはすべて先人たちのアイデアによって実用化された数多くの発明のおかげです。自転車も、そんな閃きによって生み出されたアイテムのひとつです。移動手段として非常に高い人気のある自転車は、車を持っていなくても遠い場所まで移動するのを楽にしてくれます。今となっては、日常生活の中で当たり前に溶け込む道具として位置づけられています。そんな自転車が発明されたのは、18世紀の中ごろから後半にかけて。前輪が後輪よりも非常に大きい、「ペニー・ファージング型」の自転車が世界で初めて作られました。これを作ったのは、イギリスの発明家であるジェームズ・スターレーです。彼はこの自転車のほか、三輪車つきの自転車も開発し、のちに「自転車産業の父」と称されるようになった人物です。スターレーの死後、甥のジョン・ケンプ・スターレーによって安全性の高い自転車が作られるようになりましたが、現代の自転車産業の火付け役はスターレーだったと言っても過言ではありません。今回はそんな、ジェームズ・スターレーとジョン・ケンプ・スターレーの生涯を振り返っていきましょう。

ジェームズ・スターレーの前半生(ミシンの会社を起業)

ジェームズ・スターレーは、1830年のイギリスで生まれました。幼少期はサセックスで家族と共に過ごしていましたが、10代のうちに親元を離れ、ルイスハムで暮らし始めました。初めは農業で生計を立てていましたが、時代は産業革命の真っ只中。その煽りを受けたスターレーは農業に見切りをつけ、機械産業を中心に行うことになります。スターレーの興味関心は植物よりも機器に傾き、やがて時計の修理や新しい機械の発明を行うようになりました。スターレーは機械分野に才能があったようで、彼が考案した器具類はどんどん名を馳せていきました。仕事が順調な20代の初めごろ、ジェーン・トッドという女性と結婚して、まさに人生の最高潮とも言える時代でした。しかし、スターレーの長い人生の中では、これはほんの通過点に過ぎなかったのです。彼はのちに、さらなる多大な栄誉を賜ることになります。

スターレーが結婚したばかりのとき、彼の雇用主だったジョン・ベンはスターレーの妻にミシンを送りました。このミシンは当時のイギリスでは貴重品かつ高価なものでしたが、耐久性に乏しくすぐに壊れてしまいました。そこで、スターレーは修理ついでに様々な改良を加えました。ベンが再びそのミシンを見たときに改良に気づき、スターレーを知り合いのジョシュア・ターナーに紹介しました。ターナーもスターレーのことを認め、ミシン工場に連れていきました。そこでスターレーは持ち前の才能を十全に発揮し、ターナーはスターレーに起業を持ちかけました。こうして2人は、1861年にコヴェントリーでミシンの会社を起こしました。

ジェームズ・スターレーの後半生(ペニー・ファージング型自転車を発明する)

1868年のある日、スターレーとターナーの工場にボーンシェイカー型の自転車がやってきます。このボーンシェイカーはターナーの甥が持ってきたもので、これを見たスターレーとターナーはすぐに自転車製造へ事業を広げました。当時の自転車は前後の車輪がほぼ同じサイズでできていましたが、スターレーは前輪を後輪よりもかなり大きくする改良を行いました。試行錯誤の末に生まれたのが、有名なペニー・ファージング型の自転車です。この自転車はすべて金属でできており、さらにワイヤースポークホイールを採用していました。これによって自転車本体の強度を高め、軽量ながら安価に大量生産することを可能としています。見た目の格好良さもさることながら、スピードを出しやすく多くの人に人気の商品となりました。これに加え、レバー駆動・チェーン駆動の組み合わせによる三輪車も女性用や二人乗り用に開発し、商業的には成功を収めました。

1877年、スターレーはデファレンシャル技術を活用して自転車を発明しました。二人乗り用の三輪車では、ペダルの漕ぎ具合に差がある場合、直進できないという欠点があったのです。これを解決するために、左右で異なる力を均等に駆動輪に伝える機構を作り上げました。デファレンシャル技術は現在でも自動車に使用されていますが、その先駆けとなったのがこの自転車でした。

1881年、スターレーは息を引き取りました。スターレーの死後は甥のジョン・ケンプ・スターレーが事業を受け継ぎます。ジョンはスターレーが発明したペニーファージング型の自転車からさらに安全性を高めた安全型自転車を開発し、現在の自転車の基礎を作り上げました。

今回は、ペニーファージング型の自転車の発明者であるジェームズ・スターレーの生涯を振り返ってきました。今でこそ身近にある自転車ですが、発明当初は安全性が確立されておらず、スピードを重視したものが一般的でした。現代の私たちが安全かつ便利に自転車を利用できているのは、先人たちが頭を悩ませて利便性を高めてくれたおかげです。乗り物の歴史を辿ってみると、細かな部分にもドラマがあって面白いですね。

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