ブログ

複数の発明をまとめて特許してもらう場合の留意点(発明の単一性)

特許

2025.01.09

伊藤 寛之

複数の発明をまとめて一つの出願にできれば、様々な利益があります。例えば、出願人にとっては時間と費用を削減でき、特許庁にとってはまとめて審査できるので効率化につながり、第三者にとっては関連する発明をまとめて調べることができます(一石三鳥)。しかし、際限なく複数の発明を一つの出願にまとめることを許せば、特許庁にとっては関連性の低い発明を(一人の審査官が)審査することになって負担が大きくなり、第三者にとっては関連しない特許情報まで目に入って混乱をまねきます。そのため、一つの出願にまとめることのできる発明を制限する必要があります。発明の単一性(特許法第37条)はそのための規定です。

発明の単一性の判断

単一性の判断は、<特別な技術的特徴に基づく観点>から行われます。

特別な技術的特徴(Special Technical Factor (以下、STFと呼びます))に基づく観点について例示的に説明すると、本願の請求項1に係る発明が、

【請求項1】特徴A+特徴B+特徴Cを含む装置X

であるとして、それに対してある一つの先行技術文献において、

特徴A+特徴Bを含む装置X

が開示されていた場合、本願の特徴CがSTFとして認定される可能性があります。そして、この特徴Cを有する本願のすべての請求項に係る発明は、発明の単一性を満たすことになります。すなわち、認定されたSTFと同一の(又は対応する)STFを有する発明は、単一性を満たすことになります。

ここで、比較される先行技術文献は一つだけである(複数の文献の組み合わせは考えない)ので、STFの認定は、新規性の認定と類似するところがあります。ただし、STFの認定においては、例えば、特徴Cが単に先行技術文献に周知技術などを付加・削除したものであって、新たな効果を奏しない場合は、STFとして認定されません。つまり、STFの認定は、新規性の認定よりもやや厳しく、進歩性の認定よりは緩いといった感じです。

また、「同一の又は対応するSTF」のうちの「対応するSTF」の意味としては、例えば、特別な形状Sを有するボルトと、それに対応する形状S'を有するナットにおいて、ボルトの形状SをSTFだとすると、ナットの形状S'が「対応するSTF」となります。つまり、それぞれ相補的に関連しているSTFが、「対応するSTF」に当てはまります。この他にも別観点から「対応するSTF」と認定されるケースがありますが、ここでは詳しく触れません。

発明の単一性以外で審査対象となる場合

発明の単一性は、上記のように、STFに基づいて判定されます。しかし、STFに基づかない観点からも、審査対象となる請求項が選ばれる場合があります。具体的には、 <審査の効率性に基づく観点>を満たす請求項に係る発明は、審査対象となります。これに該当するためには、請求項1の技術的特徴(Technical Factor (TF))をすべて含み、且つ同一カテゴリーに属する必要があります。例えば、

【請求項1】特徴A及び特徴Bを含む装置X
【請求項4】(請求項1の従属項)特徴A、特徴B、及び特徴Mを含む装置X

のような請求項を考えると、

・請求項4は、請求項1のTF(特徴A+特徴B)をすべて含んでいる
・請求項4は、請求項1と同じく、物の発明(装置X)であるので、同一カテゴリーに属している

の二点を満たすため、請求項4に係る発明は、審査の効率性に基づく観点から審査対象となります。ただし、これら二点を満たしていても、以下のいずれかに該当してしまうと、審査対象から外されます。

・請求項4にかかる発明が解決しようとしている課題と、請求項1にかかる発明が解決しようとしている課題との関連性が低い場合
・請求項4のTFのうち、請求項1のTFには含まれていないもの(すなわち、特徴M)と、請求項1のTF(特徴A+特徴B)との技術的関連性が低い場合

以上をまとめると、請求項1以外の任意の請求項が、審査の効率性に基づく観点から審査対象となるためには、

(I)請求項1のTFをすべて含んでいる
(II)請求項1に係る発明と同一カテゴリーに属する発明である
(III)請求項1に係る発明が解決しようとしている課題と関連している課題の解決が意図されている
(IV)当該任意の請求項に独自のTFが、請求項1のTFと技術的に関連している

のすべてを満たす必要があるということになります。

単一性判断の具体例

(i)請求項1に係る発明がSTFを有する場合

以下のような技術的特徴を含む請求項を考えます。

請求項1:A+B
請求項2(請求項1の従属項):A+B+C
請求項3(請求項2の従属項):A+B+C+D
請求項4(請求項1の従属項):A+B+N
請求項5(独立項):A+X
請求項6(独立項):B+X

ここで、請求項1の技術的特徴BがSTFだと認められたとすると、その時点で、Bを含む他のすべての請求項が請求項1との単一性を満たし、審査対象となります。上の例だと、請求項2~4、6がそれに該当します。一方で、残る請求項5は、Bを有していないため、単一性違反となります。

(ii)請求項1以外の請求項に係る発明がSTFを有する場合

以下のような技術的特徴を含む請求項を考えます。

請求項1:A+B
請求項2(請求項1の従属項):A+B+C
請求項3(請求項2の従属項):A+B+C+D
請求項4(請求項1の従属項):A+B+D
請求項5(請求項1の従属項):A+B+E
請求項6(請求項1の従属項):A+B+N
請求項7(独立項):A+X
請求項8(独立項):B+X

ここで、請求項1→請求項2→請求項3まで調べて、請求項3の特徴DがSTFだと認定されたとします。この場合、請求項1~3及び請求項4が単一性を満たして審査対象となります。つまり、STF(D)を見つけるまでに調べた請求項(請求項1~3)およびSTF(D)を含む他のすべての請求項(請求項4)が単一性を満たします。さらに、審査の効率性に基づく観点からは、請求項5、6が請求項1の技術的特徴(A+B)をすべて含むので、審査対象となる可能性があります。しかし、仮に請求項6のNが、A+Bとの技術的な関連性が低いと判断された場合、請求項6は審査対象から除外されます。また、請求項7,8は、STF(D)を含まず、かつ請求項1の技術的特徴(A+B)をすべて含むわけでもないので、審査対象から除外されます。

(iii)STFが発見されなかった場合

以下のような技術的特徴を含む請求項を考えます。

請求項1:A+B
請求項2(請求項1の従属項):A+B+C
請求項3(請求項2の従属項):A+B+C+D
請求項4(請求項1の従属項):A+B+D
請求項5(請求項1の従属項):A+B+E
請求項6(請求項1の従属項):A+B+N
請求項7(独立項):A+X
請求項8(独立項):B+X

ここで、請求項1→請求項2→請求項3まで調べて、STFが発見されなかった場合、STFを探す工程はそこで終了となります。請求項4以降では、STFは調べられません。この理由として、STFの探索は、請求項1から始まり、次は請求項1の技術的特徴をすべて含む(同一カテゴリーの)請求項のうち、最も番号が小さい請求項(上の例では請求項2)が調べられ、次はその請求項(請求項2)の技術的特徴をすべて含む(同一カテゴリーの)請求項のうち、最も番号が小さい請求項(上の例では請求項3)が調べられ...というループを回してSTFが探索されるからです。

したがって、残りの請求項(請求項4~8)は、STFに基づく観点ではなく、審査の効率性に基づく観点から審査対象とするかどうかが判断されます。上の例では、請求項5、6が請求項1の技術的特徴(A+B)をすべて含むので、審査対象となる可能性があります。しかし、仮に請求項6のNが、A+Bとの技術的な関連性が低いと判断された場合、請求項6は審査対象から除外されます。また、請求項7,8は、請求項1の技術的特徴(A+B)をすべて含まないので、審査対象から除外されます。

発明の単一性を満たす指針

審査請求料は請求項の数に比例して増加しますが、これには審査対象から除外された請求項も含まれてしまいます。費用を支払ったにもかかわらず審査対象とならない請求項は損失となってしまうので、出願時および補正時に単一性を満たす可能性のある請求項のみを残すことが大切です。

出願時においては、請求項1が少なくとも新規性を満たすようにその技術的特徴の構成を決める必要があります。請求項1以外の請求項では、請求項1においてSTFとなり得る技術的特徴を推定してそれを含むようにするか、または上で説明した審査の効率性の観点から審査対象となるようにすることが有効であると思います。

補正時においては、新規性を満たした請求項の中からSTFだと思われる技術的特徴を抽出し、それを単一性違反が指摘された請求項に含める補正を検討するか、または審査の効率性の観点から審査対象となるような補正を検討します。そのいずれも難しい場合は、単一性違反が指摘された請求項は削除します。

まとめ

単一性違反が指摘された請求項は、新規性や進歩性の審査が行われず、大きな損失となるため、単一性を満たすような請求項のみをまとめて一つの出願とすることが大切です。

参考文献:大貫進介、特許出願の中間手続基本書、第4版、発明推進協会、2016年

アーカイブ