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限定的減縮に沿って独立項を作成する際の注意点

特許

2025.02.19

伊藤 寛之

最後の拒絶理由通知や拒絶査定に対する応答では、通常の(Non-final)拒絶理由通知に対する応答よりも、許される補正に大きな制限があります。そのうちの一つが、限定的減縮と呼ばれるもので、以下の要件を満たす必要があります。

(1)特許請求の範囲の減縮であること
(2)補正前発明の発明特定事項の限定であること
(3)補正前発明と補正後発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であること
(4)補正後発明が独立して特許可能であること

この記事では、請求項1より下位の請求項(クレーム)を独立させる補正において、これら限定的減縮の要件を満たすための注意点について、例を用いて説明します。

まず、補正前発明のクレームが以下のような場合を想定します。

【請求項1】
Aを備えるX。
【請求項2】
請求項1に記載のXであって、
Aは、B及びCから成る、X。

ここで、上記クレームにおいて、補正により請求項2を独立項とする場合、以下の2パターンが考えられます(下線部が補正箇所)。

(パターン1)
【請求項1】
Aを備えるXであって、
Aは、B及びCから成る、X。

(パターン2)
【請求項1】
Aを備えるXであって、
Aは、B及びCから成る、X。

すなわち、パターン1は、請求項1に請求項2の内容を加えたものであって、一方、パターン2は、請求項2においてそれが引用する請求項1の内容を明確にし(て請求項2を独立させ)たものです。

これらパターン1とパターン2の補正は、通常の拒絶理由通知に対する応答では、どちらを用いても違いはありません。しかし、限定的減縮が要求される応答(例えば、最後の拒絶理由通知に対する応答)では、パターン1は、上で記載した限定的減縮の要件(2)に違反する可能性があります。以下でその理由を説明します。

限定的減縮の要件(2)では、補正前発明の発明特定事項の限定であることが要求されます。すなわち、

(i)限定を加える要素が補正前のクレームに存在していて、且つ
(ii)その要素を下位概念化する限定であること

が要求されます。上の例では、パターン1は、補正前のクレームに存在するAという要素の限定である点(i)はクリアしていますが、Aに加えられた限定(A=B+C)が必ずしもAの下位概念化ではない((ii)をクリアしていない)ため、限定的減縮の要件(2)に違反しているとして、補正が却下される可能性があります。一方で、パターン2では、請求項2が引用する請求項1の内容を明確にしているだけであるので、そもそも要件(2)が問題となることはありません。したがって、限定的減縮下で独立項を作成する場合は、パターン2のような補正を採用すべきです。

ここで、上の(ii)において、Aの下位概念化に相当する例として、Aが弦楽器であったとすると、Aをギター(A‘)と限定することなどが考えられます。

最後に、限定的減縮の要件(2)以外の要件についても簡単に説明します。要件(1)は、権利範囲を拡げる補正を禁じています。例えば、発明特定事項の一部の削除などを禁じています。要件(3)は、補正後発明に、補正前発明と比べて、新たな課題解決効果を加えることを禁じています。例えば、上の例では、A=B+CにおけるBまたはCが、補正前発明とは別の課題を解決する要素である場合、違反となることを示しています。要件(4)は、補正後の請求項が、新規性・進歩性を満たさない場合、違反となることを示しています。上記パターン2の補正は、要件(1)、(2)に違反しませんが、要件(3)、(4)にも違反しないような補正であることが必要です。

以上、クレームを独立させるという単純な補正であっても、限定的減縮の制限がある場合は慎重に対応しなければならないことを説明しました。参考になれば幸いです。

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