事業を成長させていく上で特許の取得や活用を考える際に、特許を大きく分けて守りの特許と攻めの特許に分類して考えると、事業のための特許活用の仕方が整理できるかもしれません。この記事では、主に守りの特許と攻めの特許の分類および効果的な活用方法について書いています。
守りの特許
守りの特許は、事業の中核となる技術(コア技術)を守るための特許と定義することができます。コア技術とは、自社独自の技術であって、他社との差別化を可能にする技術のことです。差別化によって競争優位が保てるわけなので、コア技術の特許(つまり、守りの特許)は、他社の模倣や侵害を許してはならない技術のための特許と言えます。
したがって、守りの特許の侵害は、絶対に許してはいけません。ライセンスも許容するべきではありません。日本企業であれば、侵害されたとしても話し合いで差し止めることが可能な場合が多いですが、海外企業は差し止め勧告によっても事業を止めず、訴訟を起こす必要がある場合もあります。よって、守りの特許は、訴訟を意識した特許ということもできます。
訴訟の他にも、守りの特許では、延命化を考えることも重要です。一つの特許は、最長でも20年しかもたないので、コア技術に基づいて事業を継続するためには、研究開発で得られる改良技術に対しても新たに特許(改良特許)を取得していくことが有効です。これにより、コア技術の延命につながり、また、改良特許を複数保有することで、より広い範囲の守りが形成できます。
また、守りの特許に引っかからない類似品や代替品を他社に開発されると、差別化ができなくなり、競争優位を保てなくなることから、守りの特許には、類似品や代替品をカバーする特許も含まれます。例えば、実際に製品化を行わないとしても、考え得る類似品や代替品の特許を出願して取得しておけば、強固な参入障壁を形成することができます。コア技術を守るためには、それくらいの守りがあるとより安心です。
攻めの特許
攻めの特許は、一言で言えば、他社の特許を使えるようにするための特許です。例えば、自社の事業で開発中の製品に、他社の特許で守られた技術を使いたい場合に、交渉によってそれを可能にするための特許です。他社の特許を使わせてもらう代わりに他社に使わせてあげる自社の特許であるともいえます。攻めの特許は、他社に使用を許可するためのものなので、コア技術ではない技術の特許である必要があります。同時に、交渉に使うためには、他社の事業にとっては必要な(になる可能性のある)技術の特許である必要があります。
簡単にまとめると、攻めの特許は、
・他社の目線から大切にみえる特許
・他社との交渉に使う特許
であると考えることが可能です。
ここで、攻めの特許のためだけに技術開発をして特許を取るのは、多くの場合、現実的でないと思います。よって、製品について、以下のように考えることで攻めの特許の対象が明確になります。
製品=コア技術+周辺技術
一つの製品はコア技術のみにより成り立っているわけではなく、周辺技術によっても構成されています。周辺技術は、製品の差別化には関係ないけど、その製品を製品として成り立たせるために必ず必要な技術であるため、同業他社の製品でも使用されていることが多く、周辺技術の特許を攻めの特許とすれば、自社の研究開発の対象となると同時に他社との交渉にも使い易くなります。
一方で、周辺技術は、他社製品にも共通する技術であるので、無理に守りの特許として使おうとすれば、多くの訴訟が発生して自社・他社共倒れとなる可能性もあります。よって、周辺技術は、交渉によって双方に利益をもたらす攻めの特許として使うことが適しています。
ここまで、守りの特許と攻めの特許について簡単に説明してきましたが、知財のための予算が多く割けないような場合では、守りと攻めの特許を同時に充実させていくことは困難だと思います。そのような場合は、まずコア技術の特許を取ることから始めつつ、他社の特許を侵害しないようにすることが大切です。侵害してしまうと、高いロイヤリティを支払うか、または侵害した特許の使用許可を得るためにこちらのコア技術の特許の使用許可を与える必要が生じます。いずれの場合でも、事業の競争力は大きく低下します。
仮に侵害してしまった場合、自社製品の設計変更などで侵害した特許を避けることも考えられますが、それにも時間とコストがかかるため、やはり予め他社の特許の侵害に注意することが大切です。
そして、新しい技術を開発できたら、可能な限り、特許を取得していきます。自社製品の差別化(独自領域を維持する)のためのコア技術であれば守りの特許として、将来的に他社も使いそうな共通領域の技術であれば攻めの特許として取っておきます。
事業が軌道に乗って、知財に割ける資金が多くなったら、守りの特許も攻めの特許も多く取得していきます。特許が多ければ多いほど、他社に与える脅威が大きくなり、侵害されにくくなるとともに、交渉で優位に立てます。
以上、守りの特許と攻めの特許について、簡単にまとめました。特許のポートフォリオを構築する上で何らかの参考にしていただければ幸いです。
参考文献:丸島儀一、知的財産戦略ー技術で事業を強くするために、ダイヤモンド社、2011年