SK特許業務法人 特許実務メモ もっと恐怖な外国企業の実用新案についてコメントがありましたので、補足します。
> あのー、この会社は中国で事業をしようとしているのでしょうか、それとも日本で事業をしようとしているのでしょうか。
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> 次に、ここで出てきた調査はクリアランス(他社の産業財産権を侵害しているか否か)のための調査でしょうか。そうとすれば、「ただ、彼らが日本に営業所や銀行口座をもっていなかったら、損害賠償の判決をもらっても、お金を取れない可能性があるんです。」ことがどうして問題なのでしょうか。
この会社は、日本で事業をしようとしています。この調査は、クリアランスの調査です。
実用新案権は、特許権に比べて、権利行使がためらわれます。その理由は、以下に示す29条の3の規定によって、権利行使後に実用新案権が無効になってしまうと、実用新案権者に損害賠償責任が発生する可能性があるからです。
実用新案権の権利行使を受けた者が取りうる措置としては、まず、無効審判請求を行なって実用新案権を無効にし、その後に、29条の3の規定に基づいて、実用新案権の行使によって受けた損害賠償を実用新案権者に対して請求します。この請求が裁判所で認められば、実用新案権者に支払いを要求しますが、この支払いにすんなり応じない場合は、強制執行を行うことになります。強制執行は、実用新案権者の銀行口座を差し押さえる等の方法によって行いますが、実用新案権者が日本国内に営業所や銀行口座等の財産を有していなければ、損害賠償金を回収することは非常に困難です。無効審判や29条の3による損害賠償請求自体にも多額の費用がかかり、それだけ費用をかけて、結局、損害賠償金を取れなければ最悪です。
外国企業の実用新案権者で日本国内に財産を持っていない者は、このような事情を十分に分かっているでしょう。そうすると、彼らにとって、29条3の規定はあまり怖くありません。実用新案権の権利行使がためらわれる唯一の理由が29条の3の規定ですので、この規定が抑止力にならないのであれば、実用新案権に基づいて権利行使される可能性が大きく高まるはずです。
そうすると、外国企業の実用新案は、日本企業の実用新案よりもはるかに警戒が必要であるということになります。
(実用新案権者等の責任)
第二十九条の三 実用新案権者又は専用実施権者が侵害者等に対しその権利を行使し、又はその警告をした場合において、実用新案登録を無効にすべき旨の審決(第三十七条第一項第六号に掲げる理由によるものを除く。)が確定したときは、その者は、その権利の行使又はその警告により相手方に与えた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、実用新案技術評価書の実用新案技術評価(当該実用新案登録出願に係る考案又は登録実用新案が第三条第一項第三号及び第二項(同号に掲げる考案に係るものに限る。)、第三条の二並びに第七条第一項から第三項まで及び第七項の規定により実用新案登録をすることができない旨の評価を受けたものを除く。)に基づきその権利を行使し、又はその警告をしたとき、その他相当の注意をもつてその権利を行使し、又はその警告をしたときは、この限りでない。