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恐怖の実用新案

2012.03.15

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ある日の知財部での会話(もちろんフィクションです)
「部長、新事業立ち上げのための、他社特許調査が終わりました。」
「どうだった?」
「実用新案1件を除いて、弊社製品をカバーする他社特許はありません。」
「では、事業化をすすめていいのだね。」
だぶん大丈夫です。
「たぶんとは、どういう意味かね?」
「弊社特許は、他社実用新案権を侵害していますが、その会社は、たぶん権利行使をしてこないからです。」
「権利行使に制限があるのかね?」
権利行使には制限はなく、実用新案権と特許権の効力は全く同じです。無効になった場合の責任が重いので、権利行使される可能性が低いという意味です。」
「権利行使されたら、どうするのかね?」
「登録無効の主張をします。」
「認められなかったら?」
「設計変更で回避するか、ライセンスを受けることを検討します。」
「どちらもだめだったら?」
事業から撤退するしかありません。。。
全然、大丈夫じゃないじゃないか!(怒)
その実用新案をつぶすことはできないのかね?
「無効審判を請求すればできます。ただ、無効審判を請求すると、当社がその実用新案権を侵害していることを相手に知らせてしまうので、必ず勝てる証拠が揃わないと請求することは困難です。」
「そんなのダミーを使えばいいじゃないか。」
ダミーを探すのが容易ではありません。無効審判の請求人は、審決取消訴訟に巻き込まれてしまう可能性があるので、引き受けてもらう人を探すことは容易ではありません。また、弊社が普段使っている弁理士は使えないので、よく知らない弁理士に依頼する必要がありますので、不安です。」
情報提供は、どうだ?あれなら匿名でできる。
「実用新案の場合、情報提供しても審理はしてもらえませんので、無意味です。」
「そうか、困ったな。それじゃ、無効資料を準備しておいて、事業化を検討するか。無効資料は揃っているんだよな?
「ばっちりです。登録実用新案の内容と完全には一致していませんが、ほぼ一致していますし、組み合わせの動機もあるので、進歩性欠如で無効になること間違いなしです。
「間違いないか?」
だぶん大丈夫です。
「たぶんとは、どういう意味かね?」
「進歩性欠如で無効になるかどうかは、微妙な判断になるので、結果が完全には予測できないということです。」
全然、大丈夫じゃないじゃないか!(怒)
「まさか、実用新案がいきなり特許になったりしないよな?
「出願日から3年以内であれば、特許に変更することができます。」
それじゃ、全然、大丈夫じゃないじゃないか!(怒)
君の報告書は、全くダメだ。出なおしてきなさい!
部長を怒らせてしまいました。事業化の適否を判断する際に、実用新案を無視できないと考えている会社も多いと思います。また、特許の場合は、成立前に情報提供で潰すことができますが、実用新案の場合、情報提供で潰すことができません。潰すためには無効審判が必要ですが、無効審判請求は容易ではありません。このような事情で、実用新案は、意外とやっかいな存在であるかも知れません。
無効審判は、ダミーを立てるのが難しいですし、費用もかかります。権利者側は、低コストで権利化ができて、潰す側は多額の費用がかかってしまいます。知財の費用は、当然、製品価格に転化されますので、実用新案権を取得することによって、競争上、有利な立場に立つことができる可能性があります。
弊所で扱っている案件の大半は特許ですが、もっと積極的に実用新案を活用してもいいのかなと考えています。特に、特許になるかならないか微妙な案件について、実用新案が成立してしまうと結構やっかいであるように思えます。
実用新案は無視してしまえばいいという考えはかなり乱暴です。忘れがちですが、実用新案権の効力は、特許と全く同じですし、いつでも権利行使ができます(評価書は、判決文をもらうための要件であって、訴訟提起の要件ではありません。)。そして、無効になった場合に、責任が重いだけであって、無効にならなかった場合の効力は、特許と全く同じで事業を差し止めることができます。たった1つの実用新案によって、多額の投資を行った事業が差止められる可能性は企業にとっては、極めて大きなリスクになります。
知財担当者として、自分がそのリスクを背負って、事業部に対して、事業化OKの判断を示すことは非常にためらわれると思います。そうすると、知財担当は、実用新案を無効にできるという非常に強い自信がない限りは、OKを出しにくいのではないでしょうか?実用新案権の存在によって、事業化をためらってくれたり、設計変更によってコストアップ又は性能ダウンをしてもらえると、それは、実用新案権を取得した目的にかなっています。このような社内判断は、外部には出て来ませんが、最近のコンプライアンス重視の風潮を考慮すると、実用新案権を完全に無視した事業化は容易ではないように思います。

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